作りいの上手なあなた





随分派手にやりあって来たらしい。
戻ってきたギアもぼろぼろだったが中の人間もぼろぼろだった。

ガンルームで戻ってきたパイロットの手当てをしている。
派手な怪我をしたのはフェイとバルトで、フェイはシタンが、バルトはビリーがそれぞれ手当てをしている。
その横で、シグルドがバルトに向かって説教をたれている。
「後先考えずに行動するからこうなるんです」
「そうだよ、そんなだからシグ兄ちゃんが苦労するんだ」
「うるせー、目的は果たしたんだからそれでいいだろ!?」
「そういう台詞は一度でも無傷で戻ってみせてから言うことです」
ぎゃんぎゃん騒がしい彼らから視線を右に向けると、シタンがフェイを穏やかに諭している。
「周囲を良く見て行動して下さい」
「うん、ごめんよ先生」
こちらも説教していることに変わりはないのだが。
ぼんやりとそれを眺めながらジェサイアは唸っていた。
「うーん…」
止血、消毒。それが終わればエーテルでの治療。
シタンは自己回復力が落ちるといけないからと言って、緊急時以外は傷を完治させない。
ビリーも真似しようとしているようだが、力加減がうまくいかないようだ。
「何してるんだよ親父」
こちらの方が先に終わったらしい。
むすっとした顔でビリーが近づいてくる。
「考え事だよ」
「昼間から飲んだくれてるんじゃないんだ」
もう一度視線を戻す。
フェイとシタンの組み合わせを見ているとどうにも落ち着かない。
むずむずするというか、どうにもしっくりこないというか。
バルトとシグルドを見ているときには感じない違和感。
2組のやりとりを観察しながら、何が違うのか考えてみる。
フェイはバルトに比べ、どうにもバランスが悪く見える。
それからもう一つ。
……気に食わない。
こちらの視線に気付いたのか、顔を上げた相手にこいこいと手招きする。
「一体なんです?」
傍に寄ってきた相手の腕を強く引く。
体勢を崩したところに足払いをかける。
「…っ!」
「右足か」
「……分かってるなら傷にさわる様な事しないでください。痛いじゃないですか」
「先生、大丈夫なのか!?」
「大したことはありません。少し筋を痛めただけです」
「シタンさん、治療を」
「必要ありませんよ、ビリー君。動くのに大して支障もないですし。この程度、湿布貼ってテーピングしとけば大丈夫です」
『先生』の顔で子どもたちを安心させるためだけにシタンが笑ってみせる。
この表情が……気に食わない。


わいわいと騒ぎながら子どもたちが出て行くと、ガンルームは途端に静かになる。
「足を出せ」
当然のようにシタンの治療をするシグルドと、それを当たり前のようにに受け入れているシタン。
先程のような違和感はない。
「ああ、なんだ。世話される側だった奴が世話してるから妙に見えるんだな」
「さっきからじっと私達を見ていると思えば、そんなことを考えてたんですか」
「いや、成長したもんだ。お前に人の世話が出来るようになるとはな」
「全然褒められてる気がしませんね」
よっと立ち上がってガンルームを出ようとする。
「どちらへ?」
「タダ飯食らってばかりじゃな。ギアの整備でも手伝ってくるさ」
「めずらしい。明日、台風でも来なきゃいいが」
「そのときは先輩に責任とって貰いましょう」
「お前らいい度胸じゃないか」





穏やかに微笑んでいるが、それは上辺だけのもの。
作り物の表情の下に今は何を隠している?
探ってもあいつは絶対に口を割らないだろう。
やれやれ…。
すぐに結果の出ないことは後回しにして、今出来ることをしようとジェサイアは気持ちを切り替えた。





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