子どものようにって





デウス戦が終わって世界がそれなりに平和になって。
ごたごたを片付けつつ、家族で暮らしていけるようになるまでに数年かかった。


ユイは軽やかな足取りで家の裏手に廻ると、小屋の窓からせっせと機械をいじっているシタンに声をかけた。
「町まで買い物に行くけど、今何かほしいものある?」
「今必要な物は特にありませんね」
「まあ、つまらない」
「それでは科学と生物の入門書があれば」
「探すより自分で書いた方が早いでしょ」
書籍は内容に関わらずまだ貴重品だ。
「それに、ミドリにじゃなくてあなたがほしいものを聞いているの」
「新しい動力を開発する研究がしたいと伝えたら予算も道具も材料も大量にくれましたしねぇ。しばらく不自由はありません」
「いつ貰ったのよ?」
「まだ正式にではありませんが、話が決まったのは昨日です」
誰に、とはあえて聞かなかった。
政府名を3つくらい挙げられたら夜逃げしたくなるかもしれない。
「せっかく収入があるんだったら大きな買い物でもしようかしら」
「任せますよ」
「相変わらず物欲ないのねぇ」
「すみませんね」
「悪いことじゃないけれど。本当に何もいらないの?」
「そうですねー…」
手を休めて娘のことを考える。
少しずつ父娘で会話するようになって。
お互いの好きな飲み物くらいは分かるようになったけれど。
欲を言うならば物ではありませんが、と続けられた言葉にユイは苦笑した。



「あのね、ミドリに笑ってほしいんだって」
「それだけでいいの…?」
「本人がそう言ってるんだからいいのよ」
ミドリは困った顔でユイを見上げる。
「あの人はああ見えて単純なところはものすごく単純だから、ミドリがあげたものなら何だって喜ぶわ」
「そう…かな」
「そうよ」
「なら、そうする」



精一杯の気持ちを込めて。
「お父さん、お誕生日おめでとう」









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