秒読み前




「あんまり時間は無いからな。急いで整備してくれ」
 Jr.がそう云って、各々自分の乗るE.S.へと散った。

 ジンはコクピットのシートに身体を沈め、更新状況を示すバーの映った端末をぼんやり眺めている。暫くして小さな電子音がどこか遠くから聞こえて、それが飛びかけていた彼の意識を引き戻した。一瞬びくりと身体を震わせた自分に、誰が見てる訳でもないのに会議中に居眠りをしてしまったようなバツの悪さを感じてジンは一人苦笑する。端末を閉じてシートに座りなおし、一息つくとコクピットを出た。
「ジン、武器はどうした」
 下からジギーの声がする。彼の乗る機体の整備は終わったらしい。モモがシオン達の側にいるのが見えた。
「新しいのをね、頼んでおいたんですよ」
 壁の側に放置されている長刀を見ながら答える。
「あぁほら、来ました」
 転送用に開けられたスペースに、コンテナが現れた。
 ジンは軽く装甲を蹴り、ジギーの隣に着地する。今まで使っていた長刀に比べ幾分短いその長さに、ジギーが訝しげな視線を送った。ジンはその視線を笑顔で交わすと、コンテナを開封して中身を確認した。
「二刀流か」
「本来はね…………いい物だ、悪くない」
 ジンがルベンに戻るのを見て、ジギーは少し離れる。他のE.S.に比べると明らかに防御面に不安のある機体だが、二振りの刀を振るう様はそんな脆さを微塵も感じさせない。寧ろ自身より長い長刀を振っていた頃よりも力強さを増した気がする。
「何故今になって二本にした?」
「うーん……意地、違うな……拘り……憧れ」
「憧れ?」
 ジギーは、再び隣に降りてきたジンを見る。
「やっぱり意地、かな、そうでしょうね。頑固な性格ですから」
 ジンはルベンを見ながら一人納得したように笑った。
「でも意地張って死ぬ気はありませんよ。今まで手を抜いてきたつもりはありませんが、きっと此処が山場でしょうから」
「……あの男の相手は、少なくともゼブルン単体では無理だ。複数なら勝ち目もあるだろうが、きっとそれはお前達の意にはそぐわないのだろう」
 柔らかい笑みを浮かべてルベンを見るジンに、緊張感などまるでない。
「あの男の相手は任せたぞ、ジン」
「えぇ、承知しています。出来れば援護なども控えていただけると助かる」
「邪魔だとはっきり云えばいい」
 ジギーの言葉に、すみませんとジンは苦笑した。
「大丈夫、私は勝ちます」
 それは自信を漲らせる訳でもなく、ただその事が当然であると云わんばかりの静かな声だった。
「…………元々、私達は立ち止まったら死ぬ人間なんです。だから、彼が私の前に立ちはだかり私を撃とうと云うのなら、きっとね、最後は私が勝ちますよ。それは、彼にだって解る筈なんですけどね……色々、気付いていたっていいんですよ」
 彼女はどうかなぁ。ジンは腕を組み少し首を傾げた。その表情がほんの僅かだが動いている事にジギーは気付く。だが無視をする。
「……ありがとうございます」
「何の事だ?」
「いいえ、此方の話です」
 ジンはジギーに軽く笑いかけ、自身の武器の手入れを始めた。
「おまえ自身はもう一つ持たないのか」
「これはその目的用に作られていませんのでね。こんなもの二つも振り回したんじゃ、すぐに疲れてしまいます。寄る年波には勝てませんよ」
「何が年波よ!」
 不意にかかった声に、二人は驚いて振り返る。苛立ちを隠しきれない様子でシオンが立っていた。
「そんなこと云えるって事は、もう準備は終わったって思っていいのね? 後弾薬詰めればこっちは終りなんですけど」
「此方もそれで完了しますよ。届いたんですか?」
「今ね。のんびり刀なんか取り出してるから教えに来たのよ」
「それはすみませんでした。すぐ行きます」
「本当に! 外へ出たらしっかりしてよね!」
 踵を返してディナのところへシオンが戻る。
「ジン」
 彼は困ったように笑って両手を上げて見せた。
「十四年間動かなかった事がこの一年で動いた。まだ時間があれば、これからどうにかなるかもしれないし、無くても最後にどんでん返しがあるかもしれない」
「何も動かなければ?」
 先程のように、色々な事をジギーは敢えて無視した。
「墓場まで持って行くだけですね。兄妹二人とも」
 そうならない事を祈りたいと云い刀を鞘に戻しルベンに向かうジンの背中に、ジギーはそうだなと小さく呟いた。そしてそれに、ジンはやはり笑顔で礼を言ったのだ。



ジンとジギーの会話ももう少しあったっていいじゃない。
というかそもそもジギー慣れしてないのでこういう感じでいいんだろうかとドキドキ。

関係ないですが最後のレビ戦を二刀流でタイマンするのが夢です。
夏までには是非頑張りたいところ。