終わらない水曜日
ある日ふと、特に理由も無くただ漠然と、あの子も去るのだと思った。
傍から見れば違うのだろうが、私はそう思った。あの人も彼女も去っていった。きっと、あの子も去るのだろう。
私達は、他人となるには近すぎて、家族になるには遠すぎた。
多分そう云う事なのだろうと、ある日思った。
一度そう思えば止められない。いつかあの子はそれに気付く。
あの子が去っていくのではない、私が去らせるのだろう。
気付きたくないだけなのだと、そう叫んだ時点で気付いている。
目を逸らし耳を塞ぎ、私は私自身に背を向ける。
「兄さん?」
庭を見たまま呆けてしまった私に、あの子がそっと声をかけた。
「どうしたの? 何か嫌な事でもあった?」
今にも泣きそうな顔で覗き込むものだから、どれだけ酷い顔をしているのかと彼女の瞳を覗き込んだ。確かに、これを人は泣きそうな顔だと云うのかもしれない。
「何かあったら云ってね? 私、兄さんの味方だからね?」
幼いが故の無邪気さで、この子は力強く私に抱きつく。私は彼女をそっと抱き寄せて、何度も何度も背中を優しく撫ぜた。
「私兄さんの側にいるからね。ずっと、ずっと側にいるからね」
「ありがとう……私も、」
そこで言葉を区切り空を見上げる。
一月前の事を昨日の事の様に思い出した。
一昨日の事を一年前の事の様に感じた。
明日は何処から来るのだったか。
「私も、ずっと此処にいますよ……」
どうでも良いように思えた。
- [08/05/19]
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