[LO/VE/LE/SS](漫画)の設定下におけるシグヒです。
12ヒュウガに22シグです。
ヒュウガにネコミミが標準装備です。


危機を覚えた方は即回れ右をして、
このページを再び踏まぬようご注意下さい。
それでも良い方は下へスクロールをお願いします。


何かもう原形留めてない気もしますが、
勢いってそんなもんだよねと思って頂ければ幸いに御座います。


えぇと、何か、シグルドは完全に別人です。

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「シグルド」
 呼ばれた名前が当人を探して屋敷内に木霊する。
 今年の春で小学校六年にあがったヒュウガの家であるこの屋敷は、一人で住むには広すぎた。ヒュウガの両親は、彼が六年になる直前で八人の兄と一緒に鬼籍に入った。この地には珍しい流行病で、大量の札束と交換に生き残ったのはヒュウガただ一人だった。病院を退院したヒュウガを出迎えたのは、だだっ広い家と後見人の弁護士一人。
「シグルド」
 但し、この名前はその後見人のものではない。後見人は両親の残した莫大な財産を維持するため日々奔走している。両親の経営していた会社は親族によって運営されているのだが、何処をどうしたのか今のところ乗っ取りなどはない。大きい家だったから好意的な親族だけではない事を末っ子のヒュウガも知っている。彼は別に会社を取られようと構わないのだが、貴方が成人するまでの契約ですと生真面目な後見人はヒュウガの頭を撫でた。
「……シグルド?」
 後見人の名前はカーラン・ラムサスという。退院後も不安定だったヒュウガに会うため、出来る限り屋敷に通い彼の話し相手を勤めた。それは仕事の一環だったかもしれないが、顔も知らぬ親類と赤の他人の後見人。どちらもスタート地点は同じならばよりヒュウガに時間を割いたラムサスに軍配が上がるのも当然と云えよう。一月経ってヒュウガは篭っていた部屋から出て、二月経って他人と少し話すようになった。
「シグルド!」
 但し、くどい様だがこの名前はその後見人の名前ではない。
「ヒュウガ、起きたのか?」
 漸くその名前を持つ人物の声を聞けたのは、倉庫となっている一階の隅の部屋からだった。
「すまないな。すぐ朝食の支度をしよう」
「いえ、まだ時間があるから構いませんが……その前に貴方はシャワー浴びて下さい」
 ヒュウガの黒髪とは正反対の銀髪だが、光り輝くからこそ付いた埃が良く目に付く。ヒュウガは呆れながらそういうと、何をしていたのかとシグルドに目で問う。
「お前、次の地学で星の事をやるのだろう? これがあったら便利じゃないかと思ってな」
 そう云ってシグルドが箱から出したのはこの星の模型だった。球儀と呼ばれるそれには、大陸から国、首都とあらゆる物が書き込まれている。値段が上がるとそれらをホログラフとして表示でき、シグルドが取り出したそれは更に天球儀も兼ねるという代物だった。
「何でそれを貴方が知っているんですか……」
「知ってるさ。お前のことなら何でも」
 今まで幾度となく繰り返されたその答えにヒュウガは諦めの溜息を付くと、シグルドが差し出したそれを受取った。埃は掃われている。
「これがあれば少しはきっかけになるかと思ってな」
「どうでしょう……」
 三ヶ月遅れでクラスに入ったヒュウガは、クラスメイト達とあまり上手くいっていなかった。流行病で家族を失ったのは何もヒュウガだけではないのだが、皆が腫れ物に触るように接しているのに気付いてしまうと思わず一歩下がらざるを得ない。勿論全員がそうではない。しかし既に決めた立ち位置を簡単に変えられる程、ヒュウガは立ち直っても居なかったしその居心地の悪さを流せるほどの余裕もなかった。
「ま、とりあえず持っていけよ。ここで埃を被せているよりかはいいだろう」
「…………わかりました」
 困ったような拗ねたような観念したような。複雑にも程がある表情を確認して、シグルドはヒュウガの頭を撫でた。
「よし、それじゃあ一緒に風呂に入るか」
「何でですか!」
「どうせ俺が風呂に入っている間することないだろう。なら一緒に入ろう」
「どういう思考で『なら』になるのか理解しかねます」
「ほら、今日着る服取って来い」
 笑顔で送り出されれば、再び二階の自室へ戻る他ない。仕方ないという風を精一杯装いながらヒュウガは自室へと戻り服を手に再び階段を下りる。この服も実はシグルドが、ヒュウガが寝ている間に出してくれたものである。何で自分はシグルドの云う通り動いているのだろう!
 ヒュウガがシャワーで良いと言っても、自分がシャワーを浴びる間どこにいるつもりだとシグルドが湯を張る。結果朝風呂で髪も洗われてしまう。何が悔しいかといえばそれが苦にならないというのが悔しい。
「ヒュウガ」
 シグルドはヒュウガの為だけにこの屋敷にいる。立場的には大学生らしいのだが、四年ともなれば案外自由なのだとヒュウガが屋敷にいる時間は大抵屋敷にいる。卒業論文とかもあるはずなのに、彼が屋敷で課題をやっているのを目にした事が無い。
「ほらヒュウガ。朝ごはんだ」
 新聞に何となく目を通していたヒュウガにシグルドが声をかけた。フライパンから白い皿に目玉焼きが滑り落ちる。そんなシグルドを見ながらヒュウガはふと、彼とあった最初の日を思い出した。


 シグルドは、ヒュウガが拾った。


 退院したその日、車の後部座席に乗って門を通ったときに脇に何か白いものを見た。それが最初。二階の窓からふと外を見れば、必ず門の横に誰かが立っている。白い髪に小麦の肌。自分とは正反対の容姿が何となく記憶の隅に残っていた。ヒュウガはいつも外を見ていたわけではない。しかしヒュウガが外を見るとき、必ずその誰かは門の横に居た。好奇心に負けたのは初めて彼を見てから一月と十日経ってからだった。朝起きて窓の外を見ると、やはり今日もその誰かは門の横に立っていた。雨だというのに傘も持たず、何を待っているのかぼんやり宙を眺めながら。
 ヒュウガは階下へ降りて、新しくきた家政婦の女性が作った朝食を食べた。途中で満腹になってしまいその事を謝ると、ふっくらとした家政婦はにこりと笑って許してくれた。但し丸々残したトマトを一切れ食べさせられたが。この頃ヒュウガはラムサスとこの家政婦にはある程度普通に接することが出来るようになっていた。それまでは一人殻に篭り滅多に言葉を発することもなかった。ラムサスの努力が実った結果だ。
 トマトを牛乳で流し込んだヒュウガはご褒美のキャラメルを貰うと一度自分の部屋へ戻った。もう一度窓の外を見ると、まだ誰かはそこに居た。今日は何故だか気になってそのままじっと眺めてみる。するとその視線に気付いたのか銀髪が動いてこっちを見た。
「!」
 目が合った。ヒュウガは視力が少し悪い。門の所に人がいることはわかっても其処から目が合った事なんか解らないはずだ。だが目が合った。咄嗟に窓の下に隠れたが、笑っていたような気がする。恐る恐る窓の外を伺うと、ヒュウガに気付いたのか今度は手を上げた。もしかして今までずっと自分を待っていたのか? 何故?
 ヒュウガは部屋を飛び出すと靴を履いて大きな傘を手に外に出た。雨はそんなに強くないが、傘が無ければ濡れてしまうほどには降っていた。銀髪のその人は門の横に立ってヒュウガを見ていた。
「貴方は……?」
「シグルド・ハーコート。初めまして、ヒュウガ・リクドウ」
「何の用ですか」
「お前に会いに」
「じゃあこれで用は済みましたね」
 右目を眼帯で覆ったシグルドと名乗ったそのオトナの男は、しゃがんで目線をヒュウガと合わせるとにこりと笑った。
「そう、お前は俺に興味を持った。それで充分だ」
「…………貴方、何なんですか」
「シグルド・ハーコート。大学四年。これ、学生証」
「そうじゃなくて!」
 焦れたヒュウガが叫ぶ。少しイラつくと途端に不安定になる。目の前に座るミミ無しのシグルドに、ヒュウガは殴ってやりたい衝撃を覚えた。その小さく握り締められた手を、シグルドはそっと取る。
「お前の支えになりたい」
「……?」
「一人で泣くのもいいけど、誰かの前で泣けばもっとすっきりする。抱きしめてもらえばその温もりに安心も出来る」
「貴方が、それをするって云うんですか」
「そうなりたいと、思ってるよ」
 ヒュウガのミミが小さく反応する。何だろうこのオトナは。自分の想像の外の事を云う。ラムサスに云われた言葉より、何故かずっと簡単に沁みてきて泣きそうだ。
「何で、そんな事、赤の他人の、しかも見ず知らずの貴方に」
「そうだな。俺も不思議だ」
「は……?」
「でもきっとこれは恋だ。好きだ、ヒュウガ」
 言葉に詰まるとはまさにこのことだ。愛だの恋だの今時ドラマだって使わないのに! 初見の人間にそんな言葉を吐くとはと、混乱しつつもヒュウガは呆れる。しかし自分の手を握るシグルドの手が芯まで冷えていて、自分に会う為にずっと待っていたのかと思うと少し気持ちが揺らいだ。まだきっと何処かがおかしいんだろう、得体の知れない男を屋敷へ上げようとしている。ラムサスが知ったら怒るだろうか。ヒュウガは色々な事を思いながらシグルドを連れて敷地内へと戻った。
「で? ヒュウガ、そいつは何なんだ」
 その時のラムサスの顔をヒュウガは未だに忘れられない。家政婦が不審者に驚きラムサスへと連絡し、三時間後に彼が到着した頃にはヒュウガはすっかりシグルドに懐いていた。風呂に入りこざっぱりしたシグルドはヒュウガの部屋で胡坐をかいて座り、その前に庇うようにヒュウガが立つ。
「拾った」
「何だと……」
「拾われた」
「お前には聞いていない!」
「いいでしょう、カール。ちゃんと責任は取ります」
「お前に取れる責任とは何だヒュウガ!」
 ラムサスは内心頭を抱えていた。ヒュウガは家族を失ってから何も得ようとはしなかった。有れば無くすからだ。その喪失を彼は恐れていた。だからあの日以前から所有していたものを捨てようとすれば、例えそれが些細な紙一枚だとしてもそれが彼の記憶にある限りヒュウガは激しく抵抗した。逆にあの日以降に持ち込まれたものに対しては全く興味を示さなかった。一応自分と家政婦にはある程度の関心は持っているらしいが、それも必要最低限だろう。自分が生きていくためには必要な人間なのだという最低限の関心。そんなヒュウガが自分からものを欲した。それも、人をだ。
「……どんな魔法を使ったのか教えて欲しいものだな」
「魔法なんて使っていない。ただ言葉を発しただけさ」
 ヒュウガの後ろから伸びた手が彼の腰を捉える。その腰に擦り寄るように顔を寄せた侵入者は至って穏やかな視線をラムサスに向けた。たった一つのトパーズブルー。それはただ静かにそこにあった。
「…………身分証」
「学生証と保険証。免許証もいるか」
「そうだな、全て出せ」
「カール!」
「いいかヒュウガ。もしこの男がお前、或いはこの家に害をなすと俺が判断した場合、お前がどんなに抵抗しようがこの男は殺す」
「……僕が一緒に死ぬと言っても?」
「殺す。確かにお前を守ることも俺の仕事の内だが、お前が自分でそう思って、考えて死ぬのならばそれは俺の仕事じゃない。まぁ、説得するということは内に入りそうだが」
「それが、責任?」
「死ぬ事が責任を取る事にはならない。が、間違っているとはいえわかりやすい形ではあるな」
 シグルドから取り上げた三枚のカードを眺めながらラムサスは云う。何度もそれを見返してから、学生証だけをシグルドに投げ返した。
「いいか。拾ったのならばちゃんと面倒を見ろ。それが取得者としての当面の責任だ」
「はい、カール」
「十八時半にはまた戻る。今日は共に夕食を食べよう」
「はい! 今日はどこへ? それとも家で?」
「お前の好きなように、ヒュウガ」





「…………かたい」
「こっちは?」
 代わりに差し出された白い皿の真ん中に置かれた黄身にフォークを刺す。今度はとろりと柔らかな液体が零れた。
「じゃあそれをやるよ」
 二人の皿を入れ替えてシグルドが笑う。ヒュウガはそれをこんがりと焼けたトーストの上に乗せかぶりついた。シグルドは優しい。その理由がわからない。
「シグルド、今日は?」
「ゼミがあるからな、学校に行くよ」
 ゼミ。やっぱりシグルドは大学生なんだ。聞きなれない異国の言葉のような響きを持つそれをシグルドが口にするたび、何ともいえない違和感をヒュウガは感じる。未だ異世界の人間だと思っているからだろうか。ヒュウガはミミを少し動かし考える。自分に彼は理解出来そうにないが、でも興味は持った。彼の言葉通りに。
「ヒュウガは?」
「先週と同じ」
「だと、何時?」
「五時間目までだから、二時半には」
「分かった」
 笑顔でシグルドはサラダのレタスにフォークを刺す。
「シグルドは?」
「そうだな……間に合わせる」
「……そういうことじゃないし。間に合わせなくていいし」
「そう?」
「そうです」
 毎回繰り返される会話が恥ずかしくて、毎回ヒュウガは此処でサラダを頬張る。そうしているうちにダイニングの振り子時計が八時を示す。
「準備は?」
「出来てます」
 宿題もしっかり済ませた。鞄に全て放り込んである。後は歯を磨いて荷物を持ち、十五分に玄関に出れば間に合う。最後のトマトを口に放り込んでミルクで流し込み、口の中に何も無くなったのをしっかり確認してから手を合わせダイニングを出る。二階に上がり持ち出した鞄を階段の下に居たシグルドに渡して歯を磨く。洗面台の時計が十二分を示したと同時に時計に背をむける。玄関に着いたのはジャスト十五分。
「ハンカチティッシュ宿題」
「持ちました」
「じゃあ行こう」
 シグルドも革のバッグを持ち一緒に車に乗り込む。十分ほど走って小学校に着く。その間、特に何か話す事もない。
「はい、いってらっしゃい」
 共に車を降りて、シグルドはヒュウガを校門から見送る。両手に余るほどの球儀を抱えながらヒュウガは校庭を横切り、玄関で上靴に履き替えながら校門を見ると、シグルドはまだそこに立っていた。気付く訳無いと思って少し手を振ると、シグルドは右手を振り替えした。ヒュウガは途端に恥ずかしくなり、彼に背を向け校舎に入る。教室へ行き窓際の自分の席で外を見ると、其処まで見えている筈は無いのに数秒ヒュウガの教室へ手を振ってから、車に乗り込み去って行った。
 それを寂しく思わないでもない自分の心境に驚きつつ、担任が入ってきたことを幸いにそれらを思考の隅に押しやった。



  • [07/04/15・07/05/04]
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いや、もう全員偽者だーーーーーー!!