行方
死ぬのは怖い。
そんな私に良く軍人が務まったものである。だが、不思議と軍では死を感じる事はなかった。私が強かったというつもりは毛頭なく、事実何度か負傷したし、内二回は意識不明に陥った。そこまでしても、死を感じた事はなかった。
それは、私に帰る事の出来る場所があったから。
だから私は死ななかった。死を身近なものとして感じなかった。
だから、戻る場所のない今、私は死を実感している。
死を身近なものとして、その恐怖に震えている。
ここまで来て死にたくないと叫ぶ訳ではない。もちろん、出来る事なら第二ミルチアの時代錯誤なあの家に帰り、今では骨董品と化したあの本に囲まれ朝から晩まで本を読んで暮らしたい。ただ、この宙域全体で領域シフトが行われるならその願いが叶う事はないだろう。だからと言って、決して死にたい訳ではないのだ。
それが叶わない今、ならばせめて上手くロスト・エルサレムなる地に行きたい。
その地が今人の住める環境にあるのかはわからない。それでもこの生が一瞬でも長くなるならそれに賭けたい。
出来るなら。
そう、出来るなら。
我ながら往生際の悪い事だとは思うが。
「行ってきます」
そう彼らに言った筈ではなかったのか。泣く妹を、やり切れない表情を浮かべた彼らを安心させようと笑って、そう言ったのではなかったのか。ケイオス君やネピリムに襲いかかろうとするグノーシスをアシェルで撃破しながら、まだ私は震えていた。
不意に、前方で甲高い音がした。
「KOS-MOS!!」
E.S.より遙かに大きいそれに刀を突き立てコクピットを飛び出し、振り向き様に自爆スイッチを押す。
左腕で着地の勢いを殺し前転して一体を切り裂く。
最後に残った物は祖父の形見のこの刀一つ。震える手に力を込め、柄を握り締める。宙ではKOS-MOSが戦闘を再開していた。
この身一つで何処までいけるのだろう。誰一人守る事の出来なかった自分は、最後に誰かを守れるのだろうか。
『虚勢下手なのも変わらんな』
ふと思い出したあの人の言葉と共に身体を貫かれた。
そう、私は臆病なままだ。
そのために様々な物を失った。それはあの人であり彼女であり、妹、家族であった。
「まだまだぁっ!!」
だからこれで最後。
私はきっと、あの子を守る事が出来る。今度こそ。
あの人とも彼女とも交わらなかった私の道は、最後にあの子に触れられるだろう。
今度こそきっと、あの子に触れられるだろう。
一足先に行ってますよ、シオン。
- [06/08/28]
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