いつか見た笑顔




「手を繋ぎませんか」
 それは、いつもならば私の言葉であるはずなのに、たまにこういう事がある。そんな時、私は大抵赤面する。手を繋ぐのも腕を組むのも、もう幾度と無くやっているはずなのに、私がそう云って彼が赤面するように、思わず顔が赤くなる。
「……えぇ」
 何故なのかしら。にこやかに笑う彼を前に、考えても仕方のない事を毎回考える。そうする事で一秒でも多く時間を稼いで現状を把握するというか、赤面していると言う事実から何となく逃れようとしているのか。
 おずおずと、目の前に出された右手に左手を重ねると、彼は少し笑みを深くする。程よく高い彼の体温に自分の左手が馴染むのと同じように、上った血がゆっくりと降りて落ちついていった。
「今日は何処へ行きましょうか」
 楽しそうに笑う彼の耳が、実は少し赤く染まっているのを知っている。その頭に綺麗に乗った雪も、直に融けていくだろう。
「……そうね」
「うわっ」
 何はともあれ楽しくて、彼の手を握りなおして一歩を大きく踏み出した。引っ張られる形となった彼がたたらを踏む。
「水族館がいいかな」
 あのひんやりとした空間は、隣にいる貴方を必要以上に感じられるだろうから。
「どこへでも。貴女が望むところへ」
 何て、本当はどこでもいいのだけれど。
「それじゃあ出発!」
 その手があれば、どこだって構わないのよ。



題は夜天光のさりさんより。
にこやかなジン絵ありき。
祭会場にて素敵絵付き!