13の裏側




 足元に大きな穴が開いている。それを暫く見遣った後、何かに気付いたのか端末を取り出し操作する。
「失礼」
 こちらに背を向けて画面か音声か、何かを確認したその肩が小さく揺れた。
「大尉?」
 ケイオスの問いかけに答えず端末をしまい、振り返りながら小さなディスクを差し出した。
「カナンさん、これを」
 視線に促されそれをコピーする。自分の容量、分母に比べればあまりに小さいそのデータは一体なんだというのだろうか。
「これは?」
「形見ですよ」
「何?」
「それを預けます。中将に届けて下さい」
「おい」
「いずれ、取りに伺います。その日まで大事に持っていて下さいね」
 微笑みながらそう云って、ただすれ違うだけだったはずの軍人はその場を去った。
「……形見って?」
「さぁな」
 暫くしてそう問うたケイオスに答える。試しにファイルにアクセスしてみると簡単に弾かれてしまった。この場での展開は不可能そうだ。
 厄介な物を預けたあの軍人の、瞳を思い出す。何度解析してもあの場面にそんな瞳はないのに、不確かな記憶という領域に、あの燃えるような黒い闇を湛えた瞳が焼き付いて離れない。
「おめでとう、カナン。通算127回目のロスト。記録更新といったところだな」
 今回も解析中にはなかったその瞳を、思い出す。それは預けられた正体不明の形見とやらより、気になって仕方がない。
「まるで呪いだ」
「何か云ったか?」
 呪いだ。十四年間、自身の片隅を占めるそのデータ。併せて思い出すあの軍人。別にだからといって何があるわけでもないのだが、ただただその気になる存在。聞けば、今は退役して古本屋だという。聞かなければ良かったと思った。いつこれを取りにくるつもりだろう。



「お久しぶりです」
 案外来てみれば早いものか。十四年以上に年を重ねたように見えるその元軍人は、穏やかな顔をして目の前に立っていた。
「こんなに長く抱え込むことになるとは思わなかったぞ」
「私も、こんなに長くなるとは思いませんでした」
「タチの悪い呪いだ」
「そうでもしなければやってられなかったんですよ、あの時は」
 にこやかにあっさりと呪った事を認める古本屋。そうしなければやっていられなかった理由が何かはわからない。だが、ただの八つ当たりにしては些か長すぎだ。
「まぁ、たいした事はなかったがな。精々がお前を十四年間覚えていただけだ」
「それは……」
 思いもよらぬ言葉だとばかりに、少し目を見開き奴は驚いた。
「……何でしょう、嬉しい言葉ですね。抱きしめていいですか?」
「やめてくれ。三十路を過ぎた男に抱きつかれて喜ぶ思考は持ち合わせていない」
「それは残念」
 何が残念なのか。楽しそうに男は笑う。
「それよりも、解いてもらうぞ」
「無論、そのつもりですよ」
 そう云ってにこやかに微笑み続ける元軍人の瞳に、あの時の闇がまだ静かに燃えていた。



接点があるのでケイオス&ジンで、多少強いジンもいいじゃないと思ったけれど。どうなの。
黒い兄さんもいいよね。

ジンが確認してたのはスオウからのメッセージなんですが、あの場所であのタイミングだと遅いよねってのは無視して下さい。雰囲気。雰囲気。