一つ、チョコレートを口に放る。
 大して噛まないうちにそれは溶けて消えてしまった。
「兄さん、ここに船長こなかった?」
 ちょっと聞きたいことがあるのにと、シオンはこちらへ近づいてくる。
「何? チョコレート?」
「そうですよ。お前も食べますか?」
「ありがとう。遠慮なくもらうわ」
 躊躇する事もなく、シオンはおいしいと云ってチョコレートを次々と三つ口に入れた。
「めずらし。兄さんもチョコレート食べるんだ? 和菓子だけかと思ってた」
「嫌いじゃないですよ。お前が小さい頃、誕生日ケーキだって一緒に食べたじゃないですか」
「それは私が居たからでしょ。何、なにか思い出とかあったりするわけ?」
「そりゃ私にだって、甘酸っぱい思い出の一つや二つや三つや四つ」





 それは遠い昔の事だった。