丸呑み希望




 じっとりと湿った空気が部屋を漂う。余韻を味わうかのように目を閉じているリアをでかい猫みたいで可愛いと思って、末期だなと内心ぼやく。本人に言ったらどんな反応を返すだろうか。殴られそうだ。果てしなく殴られそうだ。
「…………何だ?」
 見つめられることに居心地の悪さを感じたのだろう、身じろぎしながらリアが問う。
「可愛いなと思って」
「………………そうか」
 リアは赤くなって、口をしばらく開閉した後、諦めたようにそう言った。そうくるか。
 目元に軽くキスして身体を動かせば、つられて奴の声が漏れる。普段は堅苦しい台詞しかはかないが、こういう声も出せるのかと感心したものだ。男を喘がせる趣味はないが、それでもこいつの声は聞いていたい。正直エロい。
「何で、こんなことするんだ?」
「気持ちいいから」
 抱えあげた左足にわざと音を立てて口をつける。ついでに舐めてやれば、やめろと蹴られた。
「お前こそ、何で俺に組み敷かれてんだ?」
 単に力比べなら俺は負ける。筋肉量は明らかにこいつの方が多い。ウエストはこいつの方が太いだろうな、でもこれ筋肉だもんな。そう思って腹を撫で回すとくすぐったいのか身じろぎをして、結果自滅した。
「もぅ、抜けよっ……」
「イヤ」
 身体をより一層近づけ、薄く開いた口に舌を入れる。こいつは何処も彼処も熱い。表面を触るだけでも熱いのに、その中は更に熱い。
 身体が茹る。脳が沸く。
「……俺を抱いて、楽しいか」
「うん楽しい」
「即答かよ…………」
 背中に回された片腕はやっぱり熱い。剥がしたら赤い痕が出来ているんじゃなかろうかと思うくらいに。
「山羊は紙しか食わねぇし、魚につつかれるのも面倒だ」
 その前に殻を剥けるかどうかも怪しいしな。
「その点お前は天下の獅子だし、ハサミも気にせず殻も砕いて一撃で喰ってくれそうだから」
 デスマスクと、その名を呟いてリアは黙った。何でこいつはそう辛気臭い顔をするのだろう。
「で? 何でお前は俺に抱かれる」
 首の皮に犬歯を走らせる。甘噛みでもなくただ歯を滑らせる。薄っぺらいこの下にこいつの熱が走っているかと思うとそれだけで興奮するのは何でだろうな。
「そんな、小さなハサミで俺の首は千切れないからさ。動脈にも届かないぞ、デスマスク」
「はっ、言うじゃねぇか」
 俺は笑って体を起こし、大きく腰を打ちつけた。
「せいぜい良い声で鳴けよ、子猫ちゃん」
「誰が猫だっ」





 笑って笑って。
 そうやって笑って。
 清々したと思って笑って。