十二の防人
誰から街を守るのか
何から街を守るのか
そんな理由は遠い昔に置いてきたまま

* 哀れな双子と弟 * 小さな羊と牛 * 幼い蠍と水瓶 * 理解のある双子と蟹 *
* 動けない山羊と魚 * 乙女と再び弟 * 老天秤と羊たち *
* 憐れな双子と蟹 * 盲目の魚 *
* 揺れる弟 *
* やっぱり動けない山羊 *




哀れな双子と弟
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「お前は置いていかれたのだよ、アイオリア」
「おいてった……?」
「可哀想にね」
「にいちゃ……」
「彼は皆を捨てて行ったのだ」
「…………さが?」
「お前も私も捨てて行ったのだよ」
「さが? ないてる?」
「可哀想にね。アイオリア」






小さな羊と牛
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「何故 widder だけ複数いるか御存知ですか? 生贄なのですよ。私達は」
「……そんな事を言うな」
「別にそれを不幸だと思った事はありません。師に比べれば私は幸せです」
「ムウ、お前は……」
「ただあの子を、残していく事が心残り」
「……ムウ」
「あの子が私と同じ道を逝く事が心残り」






幼い蠍と水瓶
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「嘘だっ! 違う、俺は造られてなんかいない!!」
「落ち着け、ミロ!」
「違う、父さんも母さんもいたんだ! あんな管の中で生まれたんじゃない!」
「ミロ、私達は皆同じだ。あの管の中で生まれた」
「違うっ!!」
「私もあの管の中で出来た! それで、お前は私から離れていくのか?」
「カミュっ……」
「離れないだろう? 私も同じだ、ミロ。だからどうした。お前が此処に居る。それでいいじゃないか」






理解のある双子と蟹
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「そうやって、誰も帰ってこないんだと」
「それがサガの理由だって?」
「光を知らなければ闇を恐れる事も無い」
「外を知らなければ出たがることも無いってか」
「まぁ、俺は外に出て行くけどな」
「アンタはそうだろうな、カノン」
「お前はどうなんだ、デスマスク」
「光なんか要らねぇ」
「……そうかよ」
「俺は離れないから安心しろって云っといて」
「テメェで云えよ」
「俺は、此処が良い」






動けない山羊と魚
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「君は外へ行きたかったろうね。シュラ。アイオロスの後を追いたかったろうね」
「……わからん」
「今からでも遅くは無いよ。この道を下りて行けば良い」
「…………」
「ムウは何も言わずに通してくれるだろう」
「下りれば……」
「だから下りて行けば良い。そんな、度胸があれば」
「……煩い」
「それが懸命だよ、シュラ。私は君もデスマスクも失いたくは無いからね」
「サガは、どうしたいのだろうか」
「あの人は此処が好きなだけだよ。だから私も此処が好きだ。無条件で」






乙女と再び弟
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「つまりは、君とアイオロスは同じなのだな」
「え?」
「この世に誕生したときに二つに分けられたから、引き合うのだろう」
「二つって?」
「サガやカノンと同じだ。双子なのだよ君達は」
「!」
「元は一つであったから、自然に別れた彼等より近しい存在かもしれないがね」
「……俺と、兄さんが?」
「私達は誰でもそうだ。ただ、皆自分以外が崩壊した。それだけの事」
「シャカにも、居たのか」
「居た。そして今も私の中に居る」






老天秤と羊たち
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「外は、人の心じゃ」
「老師?」
「恐れれば恐れるだけの理由を、期待すれば期待するだけの理由を用意して待つ」
「それは……」
「この街と大して変わるものではあるまいよ。アイオロスはそれを知っていたのだ」
「師は…………シオンは、外を見たかったでしょうか」
「さてな。それでも、お主が居て幸せであった事は確かだろうの」






憐れな双子と蟹
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「……来やがった、あのヤロウっ!」
「デスマスク」
「アイオリアを下がらせろ、サガ。取りあえず結界を閉じる」
「わかった。お前はどうするのだ」
「多分下の二人は抜かれるだろう。俺が死んでも止めてやる!」






盲目の魚
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「貴方は、結局自分を愛してるだけだ」
「お前がサガを好きなのと大して違わない気がするけどな。アフロディーテ」
「元は同じ細胞の癖に」
「そうだね。でも私が好きなのは私ではなくアイオリアだから」
「…………」
「それを何と呼ぶかはお前たちの勝手だよ。私はアイオリアを貰って行く」





















揺れる弟
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「選びなさい、アイオリア。私と行くか、此処に残るか」
「兄さん……」
「此処に残るのなら、お前は連れて行かない。どちらか選べなくても、お前を連れて行かない」
「…………」
「選びなさい。その為に待っていたのだから」
「その為って……?」
「お前に大事なものが出来る充分な時間を与える為に、私は待っていたのだから」




















やっぱり動けない山羊
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二人を抱えては飛べないと俺は置いて行かれた。
去っていく二人を追いかけたかったのか。
もう良くわからない。
二つの塔を守る防人は消えた。
新しい防人が管の中で息をする。
この街は時を止めて息をする。
置いてきた理由も見つからず今日も街は息をする。
密やかに。




何がしたかったのか良く解らないパラレルロスリア。只管にシュラが憐れ。