一足お先




 右足が折れた。聖衣の右足部分が無いのだから、物は何であれ聖衣を着ての攻撃に耐えられるはずが無い。イテー、イテー、と俺が騒ぐ向かいで、龍が怒りに燃えていた。大丈夫だろあのガキは。老師がいるんだから。





 イテー。
 あ、涙出てきた。





 さらに追加で騒いでいたら、各部が乾いた音を立てて俺から離れていった。名残惜しむ気配も無く、一直線に積尸気を出て行く。これで俺は黄金聖闘士じゃなくなったわけだ。クビだ。望むところだ。むしろ頼む。あいつらと同じ黄金聖闘士として死ぬのはまっぴらごめんだ。冥界だろうが魔界だろうが天界だろうが喧嘩なんざこの身一つで充分だ。屍を築いてその上で胡坐をかいてあいつらを待とう。どうせたどり着く先は一緒だろうから。



 龍が自分も聖衣を脱いだ。全く持って律儀な事だ。俺はそんなことをしなかった。いつでも全力で敵を殺した。男だろうが女だろうが年寄りだろうがガキだろうが関係なく全力で殺した。だからそんなことをしなくて良いのに。持ってる全てで俺を殺せば良いのに。情けだか何だか知らないがお優しい事で。万一それで死んだらどうするんだこの男は。



 幸いな事に龍は俺に殺される事なく、逆に俺は龍の技を喰らって吹っ飛んだ。頭上を仰ぎ見るようにすればこれから落ちる先の深く暗い穴が見えた。そのまま落ちていくかと思ったら、肉を踏み潰すような音がして(肉体なんか無いのにな)俺は亡者たちの上に落ちた。うっとしい呻き声が次々と上がり、伸ばされた無数の手が俺の身体を引き千切り持っていく。
 あらぬ方向に曲げられた指が折れて千切られる。凄い痛い。生身じゃないのにおかしいな。太腿の肉をごっそり持っていかれ、剥き出しになった大腿骨をぞろりと引き抜かれる。その傷口から見えた脛の骨(なんて言ったかな)も、ついでにずるりと引き抜かれる。例えるならあれだ、ケツにぶち込まれたイチモツを抜かれるような感じをもっと凄くしたような。痛みよりもその感触に鳥肌が立つ。といっても立つような皮膚は殆ど無いが。全部持っていかれた。はみでた腸が延々と引っ張られる。わはははは。人間の腸ってのは長いんだ、知らなかったか。
 意外にきれいに食べられて、残ったのは頭だけだ。あ、この野郎。髪の毛を引っ張るな。頭が最後まで残されたのは、自分が喰われる様を見せ付けたいからか、それとも不味いからか、むしろ考えていないからか。無事だった目ン玉で最後に見たのは、顔を喰おうと大きく口を開けたやつの喉の奥の闇だ。










 こんな肉で良ければくれてやらぁ。
 喰って腹でも下しやがれ。