気紛れと、猫。
きっかけは些細な事だ。そんなもんだ。世の中全部。
「どうした?」
上の空の俺をサガが咎める。今のサガは黒だ、当たり前ながら。白が俺を組み敷けるならそもそも黒は此処に在り得ない。
「いや、猫が」
「あぁ……そういえば呼び出していたか」
「アンタって、ヒデェヤツ」
ククッと二人で笑う。
壁の向こうにはまだ猫の気配。
「な、ここでサガって口走ってやろうか」
「そんな事をして、ただで済むと思うのか?」
「どんなことされちゃうの?」
露骨に媚びるような声を出す。サガは、赤い眼を楽しそうに歪ませた。
「八つ裂きにしてやろうか。それとも星々と共に砕いてやろうか。お前は私の前で悶絶して死んでいくのだ」
あぁマズイ。本当にするとは思わないけれどこのままだと腕の一本くらい折られそうだ。生暖かい舌が俺の頚動脈を舐め上げる。
「別にやられてもいいけどさ、アンタの手足が減っちまうぜ? それにこんな事も出来なくなる」
「そうか……他の相手を探さなくてはな」
「だから止めとけよ。どうせ俺言わないし」
俺以外じゃ退屈なくせに。
「あぁそうだな。お前はとても使い勝手がいい。今更どうして手放せようか」
「お褒めに預かり光栄至極っ……」
猫の気配はいつの間にか消えていた。
俺は、サガに貫かれながらふと頭をよぎった思いにうっすら笑った。
事を終えたらサガはさっさと寝てしまったので、俺はシーツ一つ頭から被って十二宮を降りた。これから起こそうとする事にともすれば笑ってしまいそう。声を抑えるのは結構大変だ。
目的の獅子宮にたどり着く。静まり返ったその中に、きっとあいつは熱を抱えている。
あぁ、楽しみ。
一人獅子宮の中を歩く。いつもなら高い天井に甲高い足音を響かせるのに今日は裸足だから音がしない。代わりにいつもより熱を奪われ足が冷たくなっていく。でもきっとすぐにまた暖かくなるだろうと思えばまだ冷め切っていない体の奥が疼いた。
「こんばんは〜」
「!」
ふざけた声でドアを開ける。立て付けが悪いのか思ったより大きな音がした。
アイオリアは今まで全く気付かなかったのか反射的に顔を上げて思い切り驚いていますと言う顔をしていた。無用心な奴め。
「な、何だよ……」
座っていた椅子からも立ち上がり、逃げ腰で何とかそれだけを言う。
「出張でぇす」
俺は構わずずかずか歩み寄る。アイオリアは慌てて後退する。俺がシーツだけ巻いてるのを見てさっきのを思い出したのだろう、些か顔が赤い。そのうちアイオリアの背が壁に当たる。それでも脇に逃げようとする。更に追いかければ角に追い詰められて、ついにはしゃがみ込んだ。
「来るなよっ……何なんだよっ」
両腕で顔を隠し小さく丸まったアイオリアの側に、俺も膝をついた。間近で見た髪は湿っているようだ。
「風呂場で抜いた?」
アイオリアは両腕を下げて俺を睨みつけたが言葉は出てこなかった。
「さっき聞いてたろ。そんで興奮したか?」
怒りと羞恥とでアイオリアが更に赤くなる。何も言わないって事は認めたも同じなのに。でもその顔で違うと叫んでも同じだけどな。
「男同士でセックスしてるのはおかしいか? 俺が喘いでて変態だと思ってんだろ。それに興奮した自分が嫌なんだろ」
「……!」
「まぁ仕方ねぇわな。若ぇんだし」
そう言って手を伸ばしたら弾かれた。真っ赤な顔して口をぱくぱくさせて、それでも何とか拒もうとしている。
「でも風呂場で抜いたくらいじゃ足りねぇだろ」
一瞬奴が硬直した隙を突いてそれを触る。まだ微かに硬かったそれはあっという間に反応を示す。
「ちょ、何してっ! 止めろよっ!!」
身を捩っても後ろは壁。俺の手を剥がそうとするが少し力を入れればそれも出来ず。
「大人しくしてろって」
顔を近づけそう囁く。アイオリアは息を詰めてじっと俺を見つめるだけだった。唇を寄せれば可哀想なくらい身体を大きく竦ませた。そのままキスして舌を捻じ込む。急所を握られて抵抗出来ないのかすんなり舌が入ったから、思う存分口の中をかき回してやる。
「ぁ、あ、はふ、あ、あ」
細かく震える睫毛が面白くて、今度は直に触ってやる。
「ひっ!」
懇願するようにこっちを見ても止めてやらない。そのうち手が濡れてきた。先を親指でなぞってやると両腕を掴まれた。今にも泣きそうなその顔。でも止めてやらない。俺も欲しいから。何でも良いなんて見境なさ過ぎ。
「ほら、見てろよ」
シーツを脇に落としてアイオリアの上に跨る。アイオリアはいきり立った俺に目を一瞬奪われ、でも何とか目を離して俺の顔を見た。
「今から入れるんだぜ、此処に。あ、あぁ、ンっ、あ、あぁ…………わかるだろ、入っていくのっ。あ、ンッ……あ、はっ、…………ホラ。全部、入った」
腹が一杯になる。サガより少し短いが太さは充分。むしろサガより太いかも。
「何で……何でこんなっ……」
「キマグレ」
そういい捨てて俺は動き出す。騎乗位は自分で動けるから楽だ。
「うぁっ、あ、やっぁ、はっ……んっ!」
「くっ……あー、ヤバ。もたねぇかも……」
身震いするほど気持ちいい。何だろ。気分的にヤってるからだろうか。ガキの頃にヤってた麓の街の女の気持ちが分かるかもしれない。そいつは自分より歳が相当下の男ばかりと寝ていた。歳が上の奴とは寝ないのかと聞いたら、ヤられるのは嫌いだと答えた。その時は分からなかったが、今この瞬間少しだけ分かったかもしれない。
「あ、あ、あ、あ、あぁ、あっ」
まるでヤられている女のように声を上げるアイオリア。突っ込んでいる訳じゃないが、確かにこいつをヤっているのは俺のほうだ。
ふいに、アイオリアの腹に力が篭る。歯を噛み締め声を殺し何かに耐えている。
「我慢すんなよ。吐き出せよ、俺の、中にっ……」
服の上から立ち上がった乳首を押しつぶせば、アイオリアの体が僅かに震えた。ついでに俺も自身を扱いてその時に合わせてやろうと動きを早める。
「ふ、ンッ、ア、はッ、あぁ……いいっ、オマエ、最高……」
ついでに思いっきり喘いでやったり。
アイオリアの息継ぎがだんだんと短くなって、イヤイヤをするように首を横に振った。その瞬間は両手で顔を覆った。中にぶちまけられた物の熱さに身を振るわせる。そして俺も精射した。手に吐き出したそれをべっとりと自分の腹に塗りたくってみる。凄い、気持ち良かった。
アイオリアといえば顔を両手で覆ったきり肩を震わせていた。それを抜くのが少し惜しい気がしたけれどゆっくりと体を持ち上げる。どろりと垂れていくそれすら勿体無い。何て見境のない。アイオリアを被ってきたシーツで綺麗にしてやって服も調える。初回サーヴィスってやつ?
「お前が悪いわけじゃねぇよ。運が悪かっただけだ。でも気持ち良かったろ?」
俺の気紛れに付きあわされたのが運の尽だ。ヨシヨシと頭を撫でてやると、その手を叩かれ睨まれた。が、真っ裸の俺に気付いたのか赤くなってすぐ目を逸らす。
「じゃ」
「……お前、それで外を歩く気か?」
再びシーツに包まった俺にアイオリアが声をかける。
「何を今更。どうせ一つ下がるだけだし」
奴は一瞬呆けて、それから溜息を付き指で示した。その先は俺が入ってきた扉とは違う入り口。
「隣の部屋のクローゼットの中。何でもいいから着てけ」
「別にかまわねぇよ」
「いいから。着ろよ、何か」
「……じゃあ、ついでに風呂も貸してくれ」
「っ……」
しぶしぶアイオリアは頷いた。あ、そうか。そういやコイツさっき風呂で抜いたんだっけか。俺はフリーサイズそうなTシャツとジーパン一本を引き抜き風呂へ向かう。タオルは巻いてきたシーツでいいかと思ったら、シャワー浴びてる間に用意されていた。
リビングに戻るとアイオリアはいなかった。気配はあるからどこか別の部屋に隠れているのだろう。
「服さんきゅ」
一応声をかけて部屋を出て、獅子宮を出る。
「あ」
巨蟹宮へ下がる道すがら気付いた。この服は借り物だ。
にやりと笑う。口実は出来た。まだまだ楽しめそうだ。
きっかけはそんなもんだ。ただの気紛れ暇つぶし。
でもそれが全てだ。
あぁ。その時は気付かなかったけれど。
- [06/05/23]
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