もういくつねたら




俺の身体に強くしがみつく壬生の身体を、恐る恐る抱きしめた。
俺が勝手に抱きついた事は今まで何回もあったけど、こうして壬生の方から俺に触れてきたのは考えてみればこれが初めてだった。俺の上で身を固くして震える壬生に触れる事がえらく恐ろしくて、俺の手先も微妙に震えてしまった。
包み込むように腕を回し、背中にふわりと乗せる。
壬生はそれに怯えた様子もなく、むしろ俺を抱く腕に力を込めてきた。
苦しいくらいに抱きしめられ、俺も自分の腕に力を入れた。壬生と俺の距離が酷く近づいた気がした。それは精神的な距離ではなく単に物理的な距離だったのかもしれないが、そうであっても、俺はひどく嬉しく思った。
壬生の首筋が俺の目の前にあって、白いうなじやそこでぽっこりと浮き上がる頸骨や、無理な体勢に歪められた制服や強くしなやかな両脚が見えて、俺の体温が一気に上がった。
考えてみたらそれは毎日のように見ているものだったけど(壬生の首筋なんて何回見て何回欲情した事か)、何故だかそのとき俺はいつもに比べて妙に興奮してしまった。壬生と密着している俺の下半身が持っている熱が壬生に伝わっていないかどうか不安にもなったが、そんな気遣いよりも自分の脳内を侵す熱に持っていかれないようにするのに精一杯だった。
「み、みぶ君」
格好悪いくらいに上擦った声が上がる。
「あ、あのさ…」
俺の息が壬生の耳にかかる。壬生がびく、と身体を震わせた。一時のような小刻みな震えはもう止まっていたから、その動きが妙に気になった。
「お、俺…その…えっちな気分になっちゃうんだけど」
目の前の壬生の耳がさぁっと赤くなってゆくのが分かった。
本当は腕を放さなきゃ、壬生を押しのけなきゃ、そうじゃないと本気で俺はきっと大事な大事な壬生君を無理矢理にでもどうにかしてしまうだろうとそんな事を思ってたのに、それなのに俺の腕は何故だか壬生を放す気配なくむしろ力が籠ってしまう。あぁ、男って罪な生き物だよな本当に。理性と本能がてんでバラバラに動き出す事もあるんだから。
どうにかしてこの状況を打破しようとせめてもの自分への抵抗として身を捻って動こうとしたら、何故か壬生が腕に力を入れた。
「み、みぶ君っ」
声が激しくうわずる。あー格好悪ぃ。でも余裕ない。俺、ちょっとパニック。
「たつま…」
低く掠れた声が聞こえる。
その声を聞いた瞬間俺の脳内でネジがころろんと外れた。
グッバイ理性。おかーさん、俺は今からケダモノになります。

目の前の壬生の耳朶に噛み付いた。詰め襟が邪魔で、乱暴にホックを外して前を広げる。目の前に露になった首筋に俺は歯を立てた。
「っん」
壬生の口から息が漏れる。俺は壬生の首筋に舌を這わせて歯を当てて、思う存分味わった。
壬生の頬を触っていない方の手で、学ランのホックを外してゆく。こんな風に制服を乱す壬生を見るのは、多分俺が初めてだろう。
ホックが全部外れて、ついでにシャツのボタンもいくつか毟って、壬生の肌が露になる。浮き出た鎖骨が男のクセに信じられないくらいに扇情的で、早く触れたいと気が焦る。
けれど、その拍子に壬生の顔が目に入って、ちょっと頭が冷えた。
「あの…」
涙でウサギ目になった壬生の両頬を、手で包む。顔が近い。すごく近い。かつてないくらいの大接近だ。自分の息が臭くないか肌が荒れてないかそんなくだらない事が急に不安になった。若いね、俺も。
「あの、さ。みぶ君は、いいの?」
「龍麻はどうなのさ」
ツンとした様子で言うけれど、今にも泣き出しそうな顔に迫力はない。
あぁっ!もうなんでお前はそんなに可愛いかなぁっ!と内心絶叫しながら、俺は努めて冷静に答えた。
「お、俺はいいとかもうそんな状況じゃなくてむしろみぶ君がダメって言っても軽く無視しちゃうんじゃないかなーっていうくらいに追いつめられているというかもう後がないというか」
「じゃぁ」
面倒くさそうに壬生が俺の言葉を遮った。
「好きにすれば良いじゃないか」

神様ありがとう。
俺マジ産まれてきて良かったです。







俺のアパートはちょっと変な体裁のアパートで、台所もユニットバスも結構広い。そのクセ自由に使える部屋は狭くて4.5畳程度。その代わりにロフトが付いていてそこは六畳以上はあるので、基本的にそこに背の低いベットを置き、洋服やCDや頻繁には読まない本やそういうものを脇に置いている。
まぁつまりベットはロフトの上なわけだよ。
でも初めてのそのぅ、なんつーかセックスはさ、やっぱ布団の上でやりたいなとか俺はそんな希望を持っているから、今寝転がっている固い(一応カーペット敷いてあるけどさ)床の上ではしたくなくて。慌てて壬生君をロフトの上に追いやった。
だっていつ壬生君の気が変わるか分かんないしね。いや、変わられたら困るんだけど。そんな程度で俺に抱かれちゃったらすっごいマズい気がするけど、まぁともかく今の俺にそんな繊細な気遣いをする余裕はナイ。
といいつつも、しっかりゴムを二三個机の引き出しから取り出している辺り、まだゆとりがあったのかもしれないけれど。
ロフトの上に行くと、壬生はきょとんとした顔で布団の上にへたり込んでいた。乱れた制服に腫らした目元で、まだ何もやってないのに既に気怠い艶のある空気が流れていた。ロフトが珍しいのかきょろきょろ見回している様が、そりゃもう小動物的に可愛くて(身長180に小動物とはそれはもう酷い言い方だとは分かってるけども!)、俺は内心でまた絶叫していた。
「珍しい?」
俺が体重をかけると、チャチなベットはぎしりと軋んだ。
俺の声に壬生が振り向く。
こくりと頷く壬生の目元に、俺は軽くキスをした。
さっと壬生の顔が赤くなる。
「くれは」
名前を呼んでみた。
壬生がますます赤くなる。
「くれは」
もう一度呼ぶ。
壬生は俯いて顔を隠してしまった。
「くれは」
耳元で囁く。
壬生の方がぶるりと揺れた。
「こっち、見てよ」
ふるふると壬生が首を左右に振る。その仕草に俺はちょっと苦笑を漏らした。
「見てくれなきゃ、キスできないよ」
壬生の首元までが赤くなる。
顔にかかる前髪の隙間から、壬生がぎゅっと唇を噛んでいるのが分かる。
「キスしないまま、えっちすんの、嫌じゃない?」
反応なし。
「俺は、嫌なの」
俯いている壬生の顔を両手で包んで無理矢理上を向かせる。
壬生は顔を真っ赤にしながら、目をぎゅっと瞑っていた。
額と額をこつんと合わせる。
壬生の身体からちょっと力が抜けた。
少しずつ唇を近づけていった。お互いの息が口元にかかる。
ここで拒まれたら、諦めようと思っていた。ここでもし壬生が嫌がったら、今日の事は全部忘れようと思っていた。
壬生は、拒まなかった。
触れたくて触れたくてどうしようもなかった壬生の唇に、俺の唇が触れた。お互い驚く程にカサカサになっていて、俺はちょっと笑って互いの唇を舌で舐めた。壬生は驚いて身体を震わせたけど、突き放したりはしなかった。突き放すどころか、俺のズボンをぎゅっと握りしめていて、その仕草もまた愛おしくて俺は再び唇を合わせた。
「…っふ」
口と口の間から微かに息が漏れる。そんな些細な出来事に煽られて、俺は壬生の口の中に自分の舌を押し込み壬生の味を求めた。
「んっ、ん」
崩れそうになる壬生の身体を支えて、息を継ぐ暇も与えない。ねっとりと舌が絡み合い、互いの唾液が混じり合う。
「ふ……くぅ…ん」
俺の腕を掴む壬生の手に力が入る。二人の唾液が口の端から零れて、壬生の口元を汚した。
「ぁあ、あ…」
息をするためにようやく壬生を放すと、壬生は肩で大きく息をして喘いだ。がくがくと身体が震えている。シャツから覗く上気した肌に、俺はキスを落とした。
「……ん」
俺の唇が肌に触れる度に壬生は小さく息を乱した。律儀に返ってくる反応が嬉しくて、俺は次々にキスを落とし、そして壬生から衣服を剥いでいった。
シャツのボタンを外して左右に開く。鋭く鍛えられた身体は固く引き締まっていている。その怜悧な身体が今は俺のせいで上気し、汗ばみ、呼吸のために波打っている。筋肉の筋に沿って舌を這わせる。時折舐め、噛み、痕を付ける。
「ふぁ…あ、や……」
引き締まった身体に跡がつく度に、壬生の身体は揺れて跳ねる。
少しずつ下にずれてゆき、やがてはもう固くなっている壬生のペニスに辿り着いた。縮れた毛と一緒に、それに軽く頬擦りすると、壬生が上擦った声で俺の名前を呼んだ。
「なに?」
「なに、って…ッ」
真っ赤になった顔を手で覆う壬生に微笑みかけると、俺は壬生のそれをぱくりと口に含んだ。
「っ!」
びくんと壬生の身体が揺れた拍子に、歯に当たった。
「ん、ごめん」
俺もそんな男のモノ銜えた経験は、ない。というわけで多分下手だけど、でもまぁ練習が大事というかこういうものは実践が一番。みたいな。
少しずつ唾液を絡ませていって、深く銜えこんでいく。時折奥歯に当たりつつも、最後まできちんと銜え込んだ時には、壬生のそれは随分大きくなっていた。先端ににがじょっぱい味を感じて、あぁ、壬生君も欲情してくれるんだと思って、嬉しくなった。
ずるんと口からそれを出して身体を起こすと、改めて壬生の全身が見渡せた。
学ランとワイシャツの前をはだけられ、ズボンは足首辺りに引っかかって膝はしどけなく開かれて、裸でもなく裸でなくもなくその中途半端さに俺の熱は一気に高まった。
慌てて俺も服を脱ぎ散らかす。上半身はもう面倒なので、ワイシャツの前をはだけた状態で完全には脱がなかった。そんなことよりも早く壬生に素肌で触れたい。
「本当挿れたいんだけど…ローションもないし、ね」
俺はそう小さな声で言い訳すると、むき出しになった下半身をそっと壬生に押し付けた。
「っあ!」
俺の熱と壬生の熱が触れ合う。
擦り合うように、俺は何度か腰を前後させた。
俺の方は濡れていなかったが、壬生に絡まった俺の唾液がやがて移されて、にちゃにちゃと濡れた音がし始めた。
「っひ、い…」
ぐいぐいと押し付けると、壬生の喉の奥が引き攣れた。びくんびくんと身体が跳ね、その拍子にも擦れ合う。
身体を倒して、上半身もぴたりと壬生に擦り付けた。
「気持ち、いい?」
俺の息も相当上がっている。
胸が触れ合う感触にも異様に感じてしまって、熱はどんどん集中していく。
壬生は夢中な様子で俺の背中に手を回すと、俺の顔に自分の顔を近づけた。
「たつ…まぁ…」
平素では想像もつかないような甘い声で壬生は俺の名前を呼ぶと、拙く幼く俺の唇に自分の唇を合わせた。
呼吸に震えるそれは濡れていて柔らかく、俺はそれに噛み付きながら一層強く下半身を擦り合せた。手を伸ばして、俺のと壬生の、両方を握る。
「っひ、ぁあっ!ぁあっ!」
「っく…ぅ、あ!」
幾度か上下させた所で、二人とも白い飛沫を散らした。



「あー……」
「……重い」
二人とも見事なまでに脱力し、狭いベットの上で折り重なるようにして寝転がる。
大部分が壬生の上に乗っかっている俺の身体を乱暴に押しのけようとしながら、壬生が可愛げなく言った。
でもその腕には全然力が入っていなくて、俺も身体が重くて動く気はなくて、壬生の抗議は言葉だけに終わった。
「…重いよ」
「動けない」
再び文句を言う壬生の身体に、俺は腕を回した。
ぎゅっと抱きしめる。
「…動いてるじゃないか」
「これはまた別」
憎まれ口を叩きながら、壬生も俺にすり寄ってきた。
頬と頬を重ねて、感触を確かめる。
触れ合った所から伝わる暖かさが気持ちいい。
気持ちいいから増々脱力して、もうどうにも動く気になれない。
シャワーを浴びるべきなんだろうけど、シャワーに辿り着くまでにロフトの階段を下りて部屋を突っ切ってドアを二つ開けなくてはならない事を考えるとそれだけでもうグロッキーだ。
ほぅっと、どちらということもなく溜め息をついた。
俺は、結局使われなかったズボンの中のコンドームの事を考えた。ローション、買わないと。直前になって思い出したのだ。そうだよ男は勝手に濡れないよ。
あとやっぱしっかり身体洗わないと衛生面がなぁ。壬生に身体に何かあったら俺は切腹するしかない。ついでに俺の身に何かがあったら、俺がきつい。薬が効かない身体というのは、毒に耐性があると共に病気になっても自力で回復するしかないということなのだ。
いずれにせよ次回までにローション買っておいて、事前に身体を洗っておいて、あと出来たらベットのな〜、場所がな〜。
そんな事をぶちぶち考える俺の頭を、壬生が優しく撫でた。
固くて黒くて太い、剛毛以外の何ものでもない俺の髪を、犬を可愛がるように撫でる。指に絡めて遊び、撫で付けて可愛がり、掻き回して悪戯する。
「壬生君」
「なんだい」
「よかった、の?」
「なにが」
「ナニが」
ゴッ
俺の頭を撫でくり回していた優しい手が、一気に狂器になった。
「〜〜ッ!」
さっきまで全然力から入ってなかったのに、途端に元気になるんだからもう、こいつは。痛みをこらえる振りをして、俺は壬生君にしがみついた。
「…離れなよ」
「やだやだやだやだっ!」
壬生がつれないことを言うもんだから、俺は腕に力を込めて増々しがみついた。
「まったく…」
壬生は溜め息をつきながらもそれ以上抵抗はしないで、また俺の頭をそっと撫でた。
「君が死んで」
「死んでねー…」
「あ、ごめん。言葉の綾」
真剣に言い間違えておきながら悪びれた様子もなく、壬生が続ける。
「君が側にいないことがどんなに寂しい事か、君を失う事がどんなに辛い事か、君が僕の近くにいてくれたことが僕にとってどれほど大きな意味を持っていたのか、君がいなくなる事で僕がどれほど大きな光を失う事になるのか、君が生きている事が僕にとってどれほど救いになっているのか」
ここまで一気に言って、言葉を切った。俺の身体に回された腕に、力が籠る。
「君を、失いたくない」
俺の首筋に顔を埋めて、壬生が言った。
「その気持ちはもう、ちょっとやそっとじゃ治まってくれないんだ」
「治まらなくて良い」
目の前に差し出された壬生の首筋に、俺はそっと口づけた。
「治まらなくて良いよ」
もう一度、言う。
腹の底から笑いがこみ上げてくる。それは曇りのない歓喜の笑いだ。
「離さないからな、俺。結構しつこいぜ」
「……お好きに」
「ついでに言うと俺は間違いなく我が侭で自分勝手で、そのせいで壬生君に迷惑かけまくって、でもきっとそれでも離さない、壬生がどんなに別れたいって言っても地の果てまで追いかけて」
「縛り付けて暗い地の底に閉じ込めてあげるよ」
にっこりと、壬生が笑った。
背筋がぞくぞくと震える。

間違いない。
俺は今、世界で一番幸せな大バカ者だ。



なげーよ。
あまりにも長くて書いているのが徐々に辛くなり、まぁ、初回から突っ込むのもなぁとおもって素股以前なすりすりどぴゅ(我ながらすごい表現だ)で終わらせました。この後本番とかどんだけ長くなるんですか。
もう少し途中の描写を飛ばせるようになりたいです。大雑把なクセしてどこか細かい獅子座O型、部屋の間取りから家具の配置まで設定済み。
人様を見習いたい。もっとなんかこう萌え萌えできるエロ書きたい。ついでにもっと壬生を可愛く!可愛く!可愛く!
気を付けていてもつい龍麻に「可愛い」と言わせてしまう。あー龍麻君、それは私の妄想に対する私の感想なのだよ、といいつつも、龍麻と私は精神的にリンクしているので(つまり私の願望を龍麻を介して実現中)ついつい。
可愛いと言わないで可愛く見せたい。だれか文才をちょうだい。マックでスマイル売るくらいなんだからコンビニで文才売っててもいいじゃん。いくないか。いくないね。つか無理ですよ売れませんよ商品化できませんよ妄想も大概にしろっちゅーのほんとマじで。
にしてもエロをムラムラッと書くのはやっぱ三人称か受け視点の方がいいですね。攻め視点だとね、こう、気持ちよがっている感じがいまいち。書きにくい。
でもつい書いてしまう。いじくり倒してやるぜゲヘヘ〜みたいなそんな。感じで。

色々細かい手管使いましたが、生かされていない感がワリワリします。モリモリします。ピリピリします。精進します。絵も文も。