Chaozu
「はいどうぞ」
と言われてボウルを差し出された。咄嗟に受け取ってしまうがなにがなにやら皆目見当がつかない。見当がついていない龍麻をほったらかして、壬生はリビングのテーブルに大きなお皿と水の入った小さな器を並べる。その隣に置いたのは、餃子の皮だった。
「あ、やべはみ出しそう」
「欲張るからだよ」
ニラとキャベツがふんだんに入れられたタネを包んでゆく。ごま油とショウガの香りが漂い、食欲がそそられる。
「熱してないのにしっかり餃子の匂いがするんだね」
感心しながら龍麻は肉の香りを嗅いだ。肉に含められた様々な調味料がしっかり餃子の香りを放っている。調味料ひとつひとつは珍しいものでもないのに、合わさればしっかり餃子なのがどこか愉快だ。
スプーンですくって皮の中央に落とす。スプーンの背中で形をならすと、皮の縁につるりと水を塗って肉がはみ出さないように気をつけながら襞を作ってくるむ。時々肉の下に適当に切られた大葉を挟んだり、梅肉をしいたりもした。
「大葉と梅肉のコンボもいけるかな」
「やってみたら。香りがきつくなりそうだけど」
「チーズも…」
「遊び過ぎ。それは今度」
好奇心旺盛な恋人をたしなめると、壬生は大葉を手にした。
「豆腐たこ焼きはおいしかったけど豆腐餃子はどうだろうね」
「水餃子には向かなさそうだけどね」
そう言えばたこ焼きも最近作ってないなと龍麻は思い返す。また今度作るとしよう、中身は何がいいかなと、たこ焼きであるにもかかわらず蛸以外を入れる気満々である。
(チーズはやったし…あそうだ梅肉とか。こんにゃくもいれてみよっかなー)
その生き生きとした表情から、一体何を考えてるのか推測が付いた壬生はそっと溜め息をついた。
好奇心の塊の様な龍麻は、時々突拍子もない料理を編み出す。
(どう考えてもお好み焼きとマシュマロは相性が悪いと思うんだけど…)
高校時代、マシュマロ入り特製お好み焼き(当然のようにお好み焼きソースが掛かっていた)を食べさせられた龍麻のクラスメイト四人は未だ龍麻の手料理を警戒している。事前に考えて明らかにそれはどうだろうと思う様な料理でも、龍麻は好奇心に負けて平気で作る。
困った事に、試食に必ず誰かが巻き込まれる。
高校時代はその役目は真神のメンバーだったが、卒業したいまでは否応無しに同居の壬生にそのお鉢が回ってくる。今の所壬生の決死の努力で死に至るブツは回避されているが。今度たこ焼きを作る時は冷蔵庫の中のものに気をつけようと壬生は心に誓った。
大皿の上にはほんのり中の赤が透けて見える餃子が行儀良く鎮座している。肉が沢山入ってはち切れそうなのが龍麻の作ったもの、丁寧に襞が波打っているのが壬生の作ったものだ。
「焼く?茹でる?蒸す?」
「茹でる」
龍麻の問いに壬生が簡潔に答える。中華スープはもう完成している。あとは餃子を茹でてスープに入れるだけだ。サラダも完成して冷蔵庫で食べられるのを待っている。
ピーーー
炊飯器が炊飯完了の音を立てた。最後の餃子が壬生によって完成させられた。
「さて、と」
大鍋の水も煮立っている様子だ。
立ち上がった壬生に続いて大皿を持って龍麻も立ち上がった。
「ね、壬生君、明日の昼はたこ焼きに…」
バコッ
不埒な恋人の頭を、ちょっと本気で壬生はしばいた。