道行き




「おかえり」
「ただいま」
そんなやりとりを漸く三回繰り返した。

卒業後に龍麻はすぐに中国に渡った。
龍麻によって現地で書かれた葉書の到着はひどく頼りないばらつきで、三日分まとめて届いたり日付が前後したりなど、珍しくもなかった。郵便の頼りなさが、龍麻は確かに日本でないどこかにいるのだという事を、壬生に知らしめた。
しかし葉書に書かれたあまりに日常的で瑣末な報告(曰く牛が道を歩いている、曰く信号機が信号機の役目を果たしていない、曰くこっちの蚊は脅威だなど)を読む度に、それでも龍麻は確実に「居る」のだと自然に思わせてくれた。時折そこに同行の友が書いたと思われる落書きなどを見つけたりすると、固い口許に笑みが浮かんだりもした。
二か月振りに帰国した時には龍麻はすっかり日焼けをしていて、抱き締めると草と土の香りがした。大きな掌でそっと頭を撫でられた時、何故か頬を熱いものが伝い、龍麻はそれを寂しそうに笑いながら舐め取った。柔らかな舌の感触に、壬生はまた泣いた。
一月ほど日本にいてから、また龍麻は去っていった。今度はチベットに行くのだと言い、帰ってきたと思ったらその次にはインドへ出掛けて行った。行き先を考えるになんとなくではあるがその目的が知れて、小言すら言えなかった。そして九月も終わりの頃に龍麻はインドから帰国し、壬生は三度目になる「おかえり」を言った。

「あー、まだまだ暑いな、こっちは」
「インドだって似た様なもんだろう?」
「いや、あそこは本当に地域差がすごくてさ。俺、雪と蜃気楼を一月の内に見てきちゃったよ」
龍麻の言葉に壬生はへぇ、と少し驚いてみせた。
荷物も解かないでソファーにぐったりと座る龍麻の前に、壬生はコトリと冷えた烏龍茶を置いた。カラカラと氷が音を立てる。龍麻はグラスを手に取って、揺るがせては眩しそうに目を細めた。
「綺麗だね」
「何が」
「氷」
笑いながら、龍麻は味わうようにゆっくりと飲み干した。
「君が前、買ってきてくれたやつだよ」
中国で龍麻が買ってきてくれたお土産の烏龍茶である。現地で移動を繰り返す龍麻は、荷物を増やさないために頻繁に日本に買った物を送ってくる。見た事もない調味料やお茶やお菓子や陶器など。まるであしながおじさんだと壬生は苦笑しながらも異国からの便りを楽しみにしていた。
今回もお香や布が送られてきた。布はインテリアとして部屋の随所に用いられることになり、お香は疲労回復に一役買ってくれた。
「ところで利用法が分からないものがあったんだけど」
「どれ?香油かな?」
壬生が部屋の奥から素っ気ない作りの瓶を持ってきた。中には蜂蜜色の液体が入っている。香り高いそれは、壬生に取っては馴染みのないもので一体どうしようかと思っていた。
「あぁそれはね、疲れた時なんかに患部に擦り込むんだ。俺、向こうで足が疲れた時に使ったけど結構効いたよ」
「へぇ」
最近、読書とレポートのせいで肩こりがひどくなってきたから、今夜当たり使ってみようと壬生は思った。あ、でも今夜は龍麻と…、と内心を掠めた思いに壬生は独り頬を赤らめた。
龍麻は東京の家を引き払い、荷物は全て実家に送り返してしまった。一応神奈川に養父母の家があるが、あまり懇意にしては災厄が降り掛かるからと時折挨拶に行く程度にとどめている。
だから龍麻は日本にいる間は壬生の家に厄介になっていた。つまり寝食を共にするのであって、夜になれば当然恋人同士としてすることをすることになる。自然にああした行為を受け入れている自分を浅ましいと思うと共に、ひどく恥ずかしいと思う。
しかし一方で一日の大半を共に過ごす事によって、夜に深く交わる事によって、離れていた空白を埋めているのだとも壬生は思っている。日常の諸々に割かれる時間を抜かして考えても、一緒に住む事で龍麻と共有する時間は豊富だ。今住んでいるアパートは高校から住み続けているものだったせいで空間的には狭いが、まぁ数ヶ月くらいは特に問題はないし、龍麻と共にある時間の重要性と比べれば些末な事だ。
問題は寧ろ
「あの大量の荷物をどうにかして欲しいんだけど」
部屋の片隅に積まれたのは、送り先は壬生のアパートであるにも関わらず受け取り人の名前が「緋勇龍麻」になっているダンボール達である。いくつか自分宛に荷物を送るから保管しておいてくれと言われてはいたが、まさかここまでの数になるとは思っていなかった。というくらいの数である。あまり積み上げて荷物が傷んでも事なので、保管に困り始めていた。
「あ、ごめんごめん」
申し訳なさそうに龍麻が言った。
「明日には如月の所に持っていくから…ってこんな数になってたんだ。ごめんなー壬生君」
特に意識せずに送りつけていたのだろう。常の無計画性からすれば仕様のないことだ。と思いつつも、この先も同じように荷物を送られるのだとしたら対策を講じなくてはと壬生は腕組みをした。
「世界をふらふらしてくるって言ったら如月や紫郎さんや友達連中になんか色々頼まれてさ。しかも行く先が行く先だから…」
言い訳をしながら龍麻は段ボールを仕分けして、山積みにした。
「明日には、片すから」
「そうしてくれるとありがたいね」
龍麻が帰ってきた御陰で部屋も狭くなる事だし、空間は確保したいのだ。
「さてと。ちょっと早いけど夕飯にしようか」
「あ、ならさ俺、茄子が食べたいな。あと鯖。鯖の味噌煮が食べたい」
「はいはい。買い物行ってくるから荷物をどうにかしておいてよ」
「はーい。あ、あと栗御飯っ」
我が侭も、数ヶ月ぶりならば愛おしい。
今回はどれくらいいるんだろうと思うと、壬生の心がチクリと痛んだ。

龍麻がまた日本を出ると言い出したのは、帰国から二週間も経っていない週末の事だった。
「え、もう?だって…」
「…ごめんね」
悲しそうに俯く龍麻に、壬生は言葉を失う。
「色々と手は打ってあるんだけど、まだ十分に機能してなくて」
悔しそうに龍麻が手にしたマグの縁を咬んだ。がじがじと歯を立ててマグを咬む龍麻に、壬生は頷くしかなかった。
あの闘いの後、溢れた陰の気を受ける過程で龍脈と直結してしまった龍麻はもはや単なる器ではなく、ましてや人間でもない別の「何か」、強いて言えば龍脈の顕現となってしまった。その結果どうなるかは言わずもがな、である。自分の身と自分の大切な人たちを守るために、龍麻は一所に長居は出来なくなってしまった。
「いつ…出るんだい」
「…来週の、頭には」
何かを言おうと龍麻が幾度か口を開いたが、しかし何も言わないで俯いてしまった。
目の前で、コーヒーが冷えていく。
掌から温もりが消えてゆく感触を、壬生は目を閉じて辿った。
「どうか、無事で…」
長い沈黙の後、ようやく零れた声が微かに震えていて、壬生は歯を噛み締めた。
また、あの日々が始まる。単調な日々が、また。
「…ごめんね」
龍麻はまたそう言って、冷えきったマグを握りしめた。

一緒にお風呂に入ろうかと言ってみたら、素直に頷かれて龍麻は少し驚いた。龍麻自身冗談半分で言ってみた事だった。可愛い恋人は極度の恥ずかしがりやで、日があるうちにキスをするだけでも真っ赤になってしまう。
それだけならばまだしも、真っ赤にあった後に「華麗な技」を漏れなくお見舞いされるのである。それでも果敢にアプローチをやめない龍麻は、健気というよりも懲りないというよりも、学習しない、なのだろう。
そんな壬生が龍麻の提案に素直にこくりと首を下げたのだから、流石の龍麻も目を丸くした。が、そんな顔をすれば「なんだい…嫌ならいいよ」とか言われてしまいそうだったから、すぐににっこり笑って誤摩化した。
狭いユニットバスに大柄な男が二人入るのは相当窮屈で、それはつまり自然に肌が触れ合ってしまうということだ。肘やら脚やらをぶつけ合いながら、龍麻は壬生にシャワーを掛けた。
「流石に狭いね」
「そうだね」
龍麻の言葉に、壬生は神妙に頷いた。
「君も浴びなよ」
「ん」
壬生の身体ばかり熱心にシャワーを浴びせる龍麻に壬生が言う。龍麻は口の端を持ち上げると空いている方の手で壬生の身体を抱き寄せた。
「ちょ…ッ」
「ほらこれで」
密着した身体に掛ければ、湯は二人の身体を伝って落ちた。
「二人一緒」
にこにこと笑う龍麻に、壬生は小言も言わず頬を赤らめながらも従った。それどころか微かにではあるが自分の方から擦り寄ってきた。龍麻の肩口に頬を預け、気持ち良さそうに目を閉じる。おずおずと龍麻の腰に回される壬生の腕に、龍麻は今度こそおや、という表情をする。だが恋人甘えほど嬉しいものはない。
驚きはすぐさま喜びに変わり、龍麻は壬生を抱く腕に力を込めた。濡れた肌が触れ合って、体温が交わる。壬生によって控えめに絡められてきた脚に、龍麻はあっさりと煽られた。
「紅葉…」
口をついて出てきたのは特別な時に口にする呼び方で、自分の分かりやすさに我ながら苦笑する。龍麻の呼び声に答えるかのように、壬生の肩が頼りなく震えた。それを誤摩化そうと、壬生は一層身体を龍麻に擦り寄せた。擦れ合う肌が流れる水のせいで常とは異なる感触を二人に伝える。
背中に回された龍麻の指先が艶かしく壬生の背筋を辿った。脊椎の膨らみとへこみをなぞり、引き締まった腰を優しく揉みしだく。脚の付け根を撫でると、壬生がくすぐったそうに身を捩った。その拍子に壬生の吐息が龍麻の首筋に掛かる。もっと乱したいと、龍麻はシャワーを戻して壬生から少し身体を離した。
頭から降り掛かる雫に壬生は瞼を伏せる、濡れた髪が顔に張り付き、全身を透明な水の粒が伝ってゆく。雫が伝う胸板に掌を当て、指先で乳首をきゅっと摘んだ。甘い鼻息が壬生から漏れ、つい手に力が入ってしまう。赤みを増してゆくそこを熱心に弄る一方で、片手で壬生の太腿を撫でる。この引き締まった筋肉の感触が好きだ。肝心の所には触れない意地悪な愛撫に、壬生は息を荒くしながら龍麻に縋った。
「あ…たつ、ま…」
爪の先ですっかり立ち上がった乳首を引っ掻けば、小さく身体が跳ねた。目を伏せたまま頬を赤らめて自分に擦り寄る壬生への愛しさに、龍麻はその額に口づけた。すると壬生は顔を上げて一瞬泣き出しそうな表情を見せたかと思うと、珍しくも自分の方から龍麻に口づけた。しかもそれは触れるだけのものではなく龍麻を誘い込むようなキスで、思いもよらない積極さに龍麻は戸惑う。戸惑いつつも、壬生の要望に応えようと深く深く口付けてねっとりと舌を絡めた。互いの唾液を絡め合い、舌の感触を楽しむ。
「……っふ…ん」
下唇に歯を立ててやると、唇の隙間から甘い声が微かに漏れた。溢れる唾液を壬生は音を立てて飲み干す。濡れた口元を赤い舌で舐める仕草はどこか獣じみていてあっけなく扇情される。
その勢いで壬生の脚の間に指を滑らせると、やんわりと制された。
「僕が…するよ」
「え」
龍麻が思わず聞き返すと、壬生は耳まで赤くなりながら龍麻の胸を押した。空いた空間に窮屈そうに身を折り曲げてしゃがみ込むと、龍麻の半分だけ勃ち上がったペニスに顔を寄せた。
「え、ちょ…」
焦る龍麻を尻目に、壬生はとそっとその先端を舌を這わせた。慣れない行為に自身も戸惑っているのかその動きは拙い。迷うかのように先端を舐め、くびれの周りをおずおずと辿る。一瞬唇を離した後、遠慮がちに顔を傾けて裏の筋を舌先で舐めた。柔らかいものが龍麻の感じやすい所を行き来する。
自分の脚の間に、舌を差し出して勃起したそれを舐める壬生の顔が見えて、龍麻の心臓は激しく鼓動した。唾液で光るそれを、ようやく決心したかのように壬生が銜え込んだ。自分はいつも壬生に対してそれをやっているのだが(銜えられて恥ずかしがる壬生が好きだ)、いざ自分がやられてみると半端なく興奮してしまう。
龍麻の欲情に呼応して脈打つそれを一生懸命奥まで飲み込もうと壬生は目を細めて顔を突き出す。龍麻の腰に掌を当てながら、顔をそこに押し付ける様にして壬生は龍麻を銜え込む。口腔の中で時折脈打つそれに苦しそうにしながらも、舌を動かして龍麻の感じるところを探す。
舌でぎゅっと上あごに押し付けると、龍麻の口から息が漏れた。それが嬉しかったのか、壬生の舌がうねって龍麻のそれを締め付けた。
「あ…く、れは…」
思わず後頭部に手を当てた。軽く腰を引き、それからそっと壬生の口の奥めがけて腰を進める。
「く…ふ、ぅ……」
眉をしかめながらも精一杯口を広げて壬生はそれを受け止めた。唾液が溢れて壬生の口元を伝った。唾液を掬うために壬生が頬をすぼめる。柔らかく締め付けられる感触に熱がいっそう高まる。溜まらなくなって龍麻は壬生の口の中から自分のそれを引き抜いた。
「たつま…?」
口元に唾液を垂らしたまま壬生が不安そうに龍麻を見上げた。
「気持ち…よく、なかったかな」
壬生の濡れた唇と紅潮した目元にくらっと目眩がする。龍麻は壬生の両頬に手を当てると乱暴に口づけた。貪るように舌を吸い上げ甘噛みする。息をつく暇もなく責め立てた後ようやく解放して、低く掠れた声で龍麻が言った。
「欲しく…なったんだよ」
龍麻の言葉に壬生が慌てて下を向く。
「ベッドに、行こう」
むき出しになったうなじを見つめながら、龍麻が言った。壬生は素直に頷いた。

洗い髪も乾かないうちに二人は全裸のままベッドにもつれ込んだ。唇に噛み付くと壬生も舌を絡めて答えてきた。貪った後、壬生は身体をずらして先ほどの続きをしようと顔を龍麻の股間に埋めた。ごく自然に行われたそれは、しかし壬生の平素の行動からするとひどく不自然で、相変わらず戸惑いながらもおいしい事には目がない龍麻は壬生の肩を抑えて「脚、こっち」と言って自分の顔を跨がせた。
さすがに赤面して「た、たつま…ッ」と壬生が抗議の声を上げたが、脚の間から壬生の顔を眺めて
「早く、舐めてよ。紅葉」
と煽るように低く囁くと、壬生は一層頬を紅潮させて俯いて、大人しくなった。大人しくなって、おずおずと龍麻のそれに口を寄せて遠慮がちにぺろりと舐めた。しばらくそうして唾液を絡めた後に、ゆっくりと口に含む。自身を包み込む柔らかな感触に龍麻は酔いしれる。しばらく目を閉じて絡み付く舌の動きを堪能した後、目の前に晒された壬生の白い尻に口づけた。
びくんと壬生の身体が跳ねる。
「しっかり、舐めてね」
そう言えば、半分まで吐き出したそれを再び壬生はしっかり銜え込んだ。従順な壬生に気を良くした龍麻は引き締まった尻を掴んで左右に割った。現れた秘所に舌を這わせると、壬生の喉から苦しそうな息が漏れるのが聞こえた。襞を一枚一枚なぞって少しずつ開いてゆく。時間をかけてゆっくりほぐすと、ぐっと舌先をそこに押し当てて中に差し入れた。
きゅうっと壬生のそこが締まって異物を追い出そうとするが、龍麻は構わずねじ込んだ。
「い…ぅ……」
壬生の口からずるんと龍麻のペニスがこぼれる。それを握りしめたまま壬生は声を上げた。生暖かいものが自分の中で蠢いている。入り口を舐められた事は幾度かあったが(その度に激しい抗議を龍麻にしたものだ)、中に入れられたのはこれが初めてだった。恥ずかしさに目の前が真っ赤になり、抜いてくれと懇願したかったが、後ろから響く濡れた音に一層羞恥心が募り、言葉を紡ぐ事すらできなかった。
「んぁ…あ……」
舌で掻き回され唾液に塗れたそこは緩慢にではあるが収縮を繰り返すようになり、龍麻は満足そうに笑って舌を抜いた。
「ん、ふ…」
安心したのか壬生は息をついて再び目の前の龍麻自身に舌を這わせた。根元から先端まで舐め上げ、くびれをなぞる。徐々に慣れてきた壬生の動きに息を上げながら、龍麻は次の刺激を与えるべく自分の指に自分の舌を絡めた。わざと音を立てて壬生に聞こえるようにする。音に気付いて振り返った壬生に意地悪い笑みを見せると龍麻は見せつけるように唾液に光る指をひらめかせ、赤く染まった後孔に押し当てた。
「く……、ん」
ぷつっと先端が飲み込まれた。柔らかくほぐされたことは抵抗なく指を飲み込みそれどころか奥へと誘うように収縮した。その動きに合わせて龍麻の指は奥へ奥へと侵入していった。手慣れた仕草で壬生の敏感な部分を探り当てる。指先をそこに押し付ければ、切なげな声で壬生が鳴いた。
「ぅ……ん、や…、ぁ」
首を振って快楽を拒否する壬生に嗜虐心を刺激された龍麻は強く指を押し付けて抉るように擦った。
「ぃ、うッ…ぅ、あぁ……ッ」
腰が跳ね、ペニスが脈打つ。肩を震わせて頬を龍麻の脚に擦り付ける様に愛おしさが募ると共に、もっと鳴かせたいと龍麻の中に昏い火が灯った。指を折り曲げてぐちゅりと音を立て中をかき混ぜる。空いている手で壬生のペニスの付け根を撫で、完全に勃ち上がっているそれにはぎりぎりのところで触れないまま、壬生の熱を煽る。
「ん…ぁ…も、お……」
上体を反らして壬生がこちらを振り向いた。
要望に応えて、龍麻がひくつくそこから指を抜いた。すると壬生が自分から龍麻の上に跨がった。
「え、くれ…?」
信じられない行動に出た壬生に龍麻は言葉を失う。一方壬生は熱に浮かされた表情で、自分の唾液で濡れた龍麻のペニスを掴むと自らの後孔に押し当てた。
「は…っく……」
苦しそうに息を吐き出しながら壬生の柔らかいそこが龍麻の固いペニスを少しずつ飲み込んでいく。ほぐしたとはいえ、明らかな質量をもつそれを飲み込むのはきつそうで、秀麗な眉間に皺が寄せられる。
「ぁあ…ん……ぅ」
胸を上下させながら、壬生は少しずつ腰を落としていった。ようやく完全に飲み込むと、安心したかのようにふぅっと細く長い息を吐き出し、身体の力を抜いた。その拍子に体重がかかって、一層奥に龍麻のそれを受け入れる結果となり、壬生はまた小さく鳴いた。
涙で潤んだ目でこちらを見下ろしてくる壬生に、龍麻の心臓が跳ねる。
「…たつ、ま……」
震える唇から漏れたのは溜め息とも鳴き声ともつかないか細い声で、目眩に思わず頭を抱えた。一方壬生は、跨がってはみたけどこれからどうすればいいのだろうと不安そうに龍麻の顔を見下ろしている。呼吸に合わせて後孔は収縮し、緩やかに龍麻を刺激した。
「も…くれ、はっ」
「っあ!」
気合いと共に龍麻が上体を起こした。その拍子に繋がった部分が大きく揺らぎ、壬生の身体が後ろに傾いだ。龍麻はそれを腕で支えると、壬生の身体を抱き込んだ。
「ん…、ふ……」
甘えるように身体を擦りせ、壬生が息をついた。漏れる吐息の甘さに、龍麻は思わず唇を寄せる。
「ね…今日はどうしたの?なんか、おかしくない?」
互いの息がかかる距離で龍麻が壬生に囁いた。龍麻の言葉に壬生はさっと頬を紅潮させるとそっぽを向き、「知らない…」と蚊の鳴くような声で言った。知らないって言われてもなぁ、と龍麻は内心苦笑しながら、なだめるように壬生の背中を撫でた。それから音を立てて首筋を吸うと
「ま、こんな壬生君も大好きだけどね」
と言ってにやっと笑い、下から腰を突き上げた。
突然の刺激に壬生はのけぞって声を上げる。奥を深く突かれて一瞬目の前がホワイトアウトした。呼吸が止まって喉が引き攣るが、お構いなしに龍麻は突き上げてきた。
「っく……ひ、あ…ッ」
掠れた甲高い声が喉の奥から絞り出される。繋がり合ったそこから焼け付くかの様な熱が全身を駆け巡り、その熱さに身体が震えた。苛む熱から逃れようと身を捩るが、揺らめいた腰のせいでむしろ龍麻のそれと自分の内壁を擦り合せる事になり、熱は治まるどころか一層高まってしまう。呼吸もままならず、喉の奥から只掠れた悲鳴が漏れるだけだ。
涙目で喘ぐ壬生の胸板を龍麻の指先が悪戯する。乳首をきつくつまみ上げ鎖骨に噛み付いた。赤く残る歯形を舌先でなぞり、胸元に赤を散らした。
「ん…っく、あ……、っひ、く…ッ」
腰を掴んで前後に揺さぶると結合部からぐちゅぐちゅと濡れた音が響いた。快楽と羞恥に壬生が身を捩って悶える。
「あ、や……」
「いや?いやなの?いやならやめてもいいんだよ」
意地悪い龍麻の言葉に壬生がいやいやと首を振った。
「どっち?わかんないよ、紅葉」
顔を手で覆い隠してただ首を振る壬生の様子に苦笑を漏らしながら龍麻は腰を揺すり上げて壬生を苛んだ。顔を覆う手を掴み引き剥がすと、熱に浮かされ恍惚とした顔が現れた。
「ん…ふ、く……」
その唇を奪い舌を絡めて吸い上げる。手を解放すれば必死になって縋り付いてくる。
「たつ…ま、たつま……」
震える声で壬生が龍麻を呼んだ。頬を擦り合せて互いを確かめる。もう一度優しく唇を吸うと、龍麻は繋がり合ったそこはそのままに、壬生の身体を押し倒した。動いた拍子に龍麻のペニスが秘所から抜けかかり、壬生のそこが寂しそうにきゅうっと締まった。素直すぎる身体の反応に、龍麻は笑みを隠せない。
「ッん!ぁあ…、はっ……ッ」
押し倒し、思うままに壬生を貫いた。下からでは十分につけなかった壬生の感じやすい所を執拗に攻める。掻き回されるようにして犯され、壬生の身体が大きく震え龍麻を締め付ける。
「た…た、つ……ッ、な、か…なか、ほし……」
龍麻の体に腕を絡めて壬生がねだった。
「な…ちょ、…ほんと、どうしたの紅葉」
びっくりした拍子に動きがずれて思わず深く突いてしまう。壬生の喉が鳴る。
「いッ…から、奥…だし、て……ッ」
ねだる顔は涙に濡れた目に互いの唾液に汚れた唇で、龍麻の動きが思わず早くなる。奥深くを乱暴なほどに突かれて、壬生は悲鳴に近い鳴き声を上げた。龍麻を包み込むそこが痙攣するかのように震え、背中が大きく反り上がる。それは後孔を龍麻に差し出す姿勢になり、より深く受け入れてしまう事となった。
「い…あ、はッ」
涙が頬を伝う。首を右に左に振るのは、快楽を拒絶しているのではなく早く身を焦がすこの熱から解放されたいという懇願だ。
「く…れ、は…ッ」
腰を抱いて引き寄せ、龍麻は壬生の性感帯を鋭く突いた。
「ひッ…う……ぃ!」
龍麻を後孔がきつく締め付けびくびくと震える。それに引き摺られて龍麻は壬生の中に精を吐き出した。

「ん…は……」
まだ恍惚とした表情で壬生が息をついた。ぐったりと脱力している有様は最中の強張った身体とはまた違った艶があり、龍麻はうっとりとその頬を撫でた。指先の感触に心地良さそうに目を瞑る壬生に満足気な笑みを浮かべると、龍麻は壬生から自身を引き抜こうと腰を動かした。
「や……」
龍麻の行為を壬生が拒んだ。腰を擦り寄せて繋がりをほどこうとしない。
「やだって…」
龍麻が困惑した様子で見下ろすと、壬生はさっと頬を赤らめた。
「だ、って……」
「だって?」
「抜いたら…中のが………………出て、……しま、ぅ…………」
リンゴもかくやというほど真っ赤になりながら壬生が言った。思わぬ言葉に龍麻がむせる。
「な…ちょ、本当、今日はどうしたの壬生君……」
頬に手を当てて幾度か撫でる。そっぽを向いたままで壬生は無言だ。仕方ないなぁと龍麻は身を折り曲げて額に口付けた。
「出さないと、お腹壊しちゃうんだよ?」
「いい」
頑固に言い張る壬生に龍麻は優しく諭した。
「壬生君がしんどいとこ見たくないんだけど」
「……、は」
「え」
壬生が口の中で小さく何事かを言った。聞き取れなかった龍麻は問い返す。
「壬生く…」
「紅葉っ」
きっと龍麻を睨み付けながら壬生が言った。言ってから、耳まで赤くなる。
「く、紅葉って……呼んで欲しいの?」
真っ赤になりながらの可愛い我が儘に、龍麻の口元に我知らず笑みが浮ぶ。そしてようやく壬生の異変の理由が思いあたった。
寂しいのだ。
人慣れしてないくせに、人一倍恋しがり屋なこの恋人は、龍麻のまたの急な出立を聞いて寂しくなってしまったのだろう。漸く理由が思いあたって、龍麻はくつくつと笑った。なんと遠回しで愛しい抗議だろうか。龍麻は憮然とした顔をする壬生をきつくきつく抱きしめた。
「あぁ、もう!紅葉大好きッ」
「う、うるさいよ」
力の入っていない拳が龍麻の背中を叩く。鈍い衝撃を愛おしい思いで受け止めながら龍麻が壬生の耳元で囁いた。
「だから、ね……もっといっぱい、しよう?」
真っ赤になりながらも、こくりと頷く壬生に龍麻はまた笑みをこぼした。

「ふぅ……」
その後いちゃこらと二回三回とコトを致し、精液やら汗やらでぐだぐだになった身体を二人は再び風呂場で洗っていた。シャワーの後、龍麻の要望で狭いユニットバスには湯が貼られ、壬生は後ろから龍麻に抱えられる格好で湯に浸かっていた。
大の男二人な訳だから、龍麻の上に乗っかっている壬生は湯につかってない部分の方が多いのだが、それでも妙にあったかく感じるのは背中から伝わってくる龍麻のゆくもりのせいだろうか。力を抜いて寄りかかれば、龍麻が肩にあごをぎゅっと押し付けてきた。回された腕はしっかりと壬生を抱きとめていて、ここにいれば大丈夫なんだという妙な安心感が壬生の中に穏やかに広がった。
しかしその拍子に数日後には龍麻はまた日本を去るのだという事を思い出してしまい、抑えようがない寂寥感が壬生を襲った。そんな壬生の内心を見透かしたかのように、龍麻の腕に力が籠る。
「また、戻ってくるから」
「うん」
「必ず、ここへ」
龍麻の言葉に頷きながら、壬生はしばし沈思黙考した。訪れた静寂に、龍麻は何故か嫌な予感を覚える。
数秒後、壬生はぱっと顔を上げると、妙にせいせいとした顔で「うん、決めた」と頷いた。
「………………何を?」
本音を言うと聞きたくないけど、でも雰囲気的に聞かなきゃいけないよね、これはという龍麻の微妙な心理が冒頭の沈黙に込められている。と同時に、突飛な事は言ってくれるなという壬生への懇願でもある。が、龍麻の懇願はきれいさっぱり踏みにじられた。
「僕も、付いていく事にするよ」
ゴッ
仰け反った龍麻が後頭部を壁に激突させた。
「止めてくれ、君に頭突きされたら壁がへこむ」
くるりと振り返った壬生の表情は、今までの行ったらヤだよぅ寂しいよぅモードとは打って変わった「死にたければ、かかってきなよ」的な、いうなればそう、憑き物が落ちたかのように傲岸不遜な顔だった。すっぱりさっぱり本来の壬生に戻ってしまった顔に凄まじい喪失感を覚える龍麻は引き攣った笑顔を浮かべて必死の説得にかかった。
「壬生君には、大学が…」
「休校すればいい」
「お金が…」
「入院費ならもう国や自治体からの補助金で十分賄えるから」
「いやむしろそのお母さんは…」
「数ヶ月くらい大丈夫だよ」
「いやでも…」
「最近すっかり元気になってね。年末には一時帰宅ができると思うよ」
にこっ
有無をいわせない微笑みに、龍麻はがっくりと項垂れた。
大切な人を危険な目に遭わせないために、遭わせないために俺は各地を転々としているんですよ、壬生君っ、と龍麻は心中で絶叫した。が、そんな龍麻を尻目に壬生は「早速明日休校手続きをしてこよう」とか「あ、だからチケットは二人分でよろしくね」とかすっかりやる気満々だ。
「ふ、ふふふ…これが他のヤる気だったら俺も大歓迎なんだけど、ね…」
虚ろな目で愚痴る龍麻の頭を軽くどつきながら壬生が龍麻に向かって言った。

「これで、君とずっと一緒だ」

はにかみながら言った言葉のとんでもなさに壬生が気付いて赤面するまであと三秒。
意味を解して溢れた愛しさに龍麻が壬生を押し倒すまであと五秒。



大学生は夏休みに入ると劇的に暇人になります。壬生はその間に拳武館の手伝いとかやってそうだけど。暇すぎたんでしょうね、クレハさん。若干壊れた。

ただ離れただけでは多分壬生は平気というか寂しさに気付かない気がします。
それから再会して漸く、あぁ自分は寂しかったんだなぁみたいな。
それを自覚しちゃったから一層思いは募る。募るんでちょっと発想転換して、あ、そうか付いてっちゃえ★みたいなポジティブシンキン。いい傾向だ。
逆に龍麻はあんま寂しいとか思わなさそう。離れてても心は一つ的な発想を本気で素で受け入れられてしまう気が。
龍麻さんは単純に旅行をしているのではなく一応これでも目的を持って旅をしています。まぁその辺りは続きで…って続くんかい!続きます。……多分。