ヘタレな彼 10のお題




・・・・・お人好しにも程があります ・・・・・

「壬生君、俺の事は、裏切っても大丈夫だからね」
そう言って笑うと、壬生君は「馬鹿」と言って俺を蹴飛ばした。









・・・・・謝り過ぎです ・・・・・

「すみません、ごめんなさい、もうしません」
「……前も聞いたよ」
「今度は本当の本当に、ほんっとーーーーーにごめんなさい」
土下座しているのは何も本心からじゃなくて、こうしてれば紅葉の顔を見なくて済むからで。
言い換えれば、つまりなんていうか、先生、怖くて顔が上げられません、な状況なわけであります。
いや、怒ってる紅葉さんの顔も凄くきれいなんだけどね?
なんちゅーか今回は別格っちゅーかね?
「君は……」
地の底を這うような重低音。紅葉よ、お前は一体どこからそんな声をひねり出しているのかね?
「本当に……」
きっと紅葉のこんな声を聞いた事があるのは世界で俺だけでしょうね、いやー果報者果報者。
「なんで旅行鞄の一番底に洗ってない下着を突っ込んでおくんだい!!」
「ぶひょわッ!」
顔に突き付けられた、異臭を放つナニモノかによって、俺の現実逃避は打ち切られた。
「そして何気なく洗い籠に出すな!」
「ヒィイッ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいィイ〜!!」
「半泣きになって謝るくらいなら最初からやらなきゃいいだろ!?」
「ゆーるーしーてー(涙)」
だって怖かったんだもん!
素直に言ったら怒られるって思ったんだもん!
……でもどっちにせよ怒られるんだから、罪が軽い方にすれば良かったな…うん。
「自分で洗いなさい!」
「……はぁい…」

アメリカで買った強力洗剤が、こんなところで役に立つだなんて思ってもいなかったよ、ハニー。









・・・・・前にも同じ失敗しましたね ・・・・・

「だからなんで旅行鞄の一番底に以下省略ーーッ!!!!!」
「ヒィイーーー!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいィイーー!!!」









・・・・・見ていてはらはらします ・・・・・

ところでふと、聞いてみたくなったのです。
       <先生は壬生のどんなとこが好きになったんだ?>
炬燵にナベ。
ガラスのコップと、一升瓶。
…とくればコイバナと相場が決まっている。如月家では。
そんなわけで、聞いてみたくなったのです。
「先生は壬生のどんなとこが好きになったんだ?」
実際ほんとに聞いてみました。
「欝っぽくて自虐っぽくてちょっと変なとこ」
「おい、それでいいのかよ」
間髪入れずに返されたので、間髪入れずにツッコミました。
「うん、だってマジ欝でマジ自虐な人って面倒くさいじゃん。でも俺は能天気な人嫌いだし」
うーわ普通に返されたし。
「第一俺が普通の輩好きになるワケないし、普通の輩が俺の事好きになるワケもない」
「いやまぁ、それは納得できるんだが」
欝っぽい、自虐っぽい、というそのポインツが理解不能なのです。
「だからさ、壬生君の場合は、自虐は趣味なの」
「はあ」
「壬生君は不幸っぽい自分が好きなのね。そんで俺はそんな壬生君が好きなの」
「…はあ」
理解は出来ましたが、釈然とはしません。
「ところで先生、さっきから壬生が凄い笑顔でこっち見ながら足首回してるんだが」
「あぁ、壬生君は照れ屋さんだから」
「いやそういう方向じゃなくてだな」
「大丈夫、俺頑丈だし」
そこは笑顔で返す所なんだろうか、緋勇龍麻よ。
「というわけで、龍牙咆哮四発くらいはいけるよね、龍麻?(にっこり)」
「あーもー、お前ら本当に見いてはらはらするカップルだな、おい」

そういう問題か?









・・・・・努力だけは人一倍しています ・・・・・

「見てみて壬生君!空中浮遊できるようになったんだよ!」
「ふーん」
せめてこっち見て!こっち見てからふーんって言って!

「見てみて壬生君!雪蓮掌の応用で更に強力な拳を編み出したんだよ!」
「ふーん」
俺の新技よりもキューピー三分クッキングが大事ですか紅葉さん!

「見てみて壬生君!ついにユーラシア大陸の龍脈を制覇したんだよ!」
「ふーん」
…壬生君とゆっくり過ごせるようになる為にやってたんだけどな(涙)!

「見てみて壬生君!暇だったから掃除と洗濯と買い物と夕食の用意やっておいたんだよ!」
「あ、ありがとう。助かるよ」
ッシャーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
ほめてくれた♪


……俺の努力の大半は、多分きっと、報われていません。









・・・・・情けない顔です ・・・・・

「じゃ、行って来るね」
「いってらっしゃい」
「………」
「なんだい」
「いつ帰るのとか、聞かないの?」
「え、だってどうせ二三ヶ月くらい後だろう?」
「……………」
小さく溜め息。
「なんだいもう、情けない顔して」
これじゃどっちが置いていく側なのか、分かりゃしない。









・・・・・そこで口篭らないでください ・・・・・

「ただいま龍麻」
「おかえりー」
「良い子にしてた?(冗談)」
「……う、うん(目逸らし)」
「……」
「……」
「……とりあえず、土下座して待っててくれないかな(にっこり)?」
何をしでかしたか、ゆーっくり検証してくるからね。









・・・・・怒ると怖かったりします ・・・・・

恋人の間に隠し事はあってもいいか悪いかで、盛り上がった。
at 如月家 in サマー。
天国のお父様、お母様、日本は今日も平和です。
「えー、仕方ないじゃな〜い。隠し事の一つや二つ〜」
浮気相手じゃなければいいんだけどね、パパ心配だよ、亜里沙。
「かぁ〜く〜し〜ご〜とぉお〜〜、ウ〜フ〜フ〜〜」
「舞子はぁ〜そんな事許しませぇ〜ん!」
…ミサちゃんにはそもそも隠し事とか意味あるのかな…。
そして舞子、お前可愛い顔してるけど、どんな手段で吐かせるつもりだ?え、コラ。正体バレてないと思ったら大間違いだぞ★
「…僕は、やはり全てを包み隠さず教えて欲しいな」
「はっ、旦那はなかなかロマンチストだな」
汚れているお前もどーかと思うぞ、村雨。でもこういう奴に限って、本気になるとすげー純だったりするんだよなー。
早く村雨に本命の彼女できないかなー。そしたら遊べるのに(村雨で)。
「龍麻はどうなんだい?」
う、そこで振りますか、若旦那。
「幸いここには壬生もいない事だし」
亀さんやー、笑顔が黒いですよー。
「ダーリンはぁ〜壬生君に〜隠し事とかあるの〜?」
うーん、この面子だと面白がって壬生にばらす事もないとは思うけど…。
「ウ〜フ〜フ〜〜〜」
…だから笑いながらこっち見ないでミサちゃん、怖いから。マジ怖いから。
「別に…隠してるつもりはないけど……でもまぁ、知られたくない事はあるかなぁ」
「えー!マジで!?なになにどんな!?教えて♪」
亜里沙よ…。その食いつきの良さは何だ…。
「そんな面白い事じゃないって。拳武館に敵対する組織の手先をちょっと街路樹に干したり、壬生に手を出した秘密組織とか宗教団体を二三箇所壊滅させたり、ついで余計な考え起こさせないように壬生の所属する組織をちょっと脅迫してたり……まぁ、そんなとこかな」
「「「「「………」」」」」
…なんなんだよこのイヤな沈黙は!
「そうか…例のあのビデオはやっぱり先生の…」
「あぁ、僕も見た。…あれは………さすがにちょっと…」
「ねぇ、ひょっとして前ちょっと噂になった宗教団体を狙ったテロ事件って…」
「舞子も覚えてるぅ〜…」
「ウ〜フ〜フ〜フ〜、神如きもの、天の炎を背負いて此の世の悪を殲滅せん〜〜」
え?あれ?みんな知ってんの?
「まぁ…先生は、壬生が絡むと人格が変わるからな…」
「やっぱあれだ、ここはひとつ」

「「「「「 触らぬ神に祟りなし!! 」」」」」









・・・・・たまには頼りになるんです ・・・・・

「龍麻っ!龍麻っ!」
「どうした紅葉!」
「あいつ……あいつが……ッ!!」
「!?……分かった、向こうの部屋に隠れてて」
「う、うん……ごめん…本当に、あいつだけは…あいつだけは駄目なんだ…!」
「いいんだよ。さ、早く」
「うん…ありがとう……」
………パタン。
さて、と……。
…。
…。
…。
…。
ッノヤロォオ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!

こんな時にしか俺は頼ってもらえないのかと、悔し涙は全て「あいつ」に叩き付けてやったのである。

Gの出る夏。









・・・・・一生懸命、愛してくれます ・・・・・

雨が降っていた。
暗い夜だった。
雨は嫌いだ。
足は滑るし、標的は予定外の行動をしがちだ。
けれど仕事には制約だとか期限とかがつきものなわけで、時に僕はそういった不安定な状況での任務の執行を…。
ここまで考えて、あぁ、愚かだなと思う。
だらだらと考えるのは現実から逃げたいからだ。
また、殺した。
この赤い手のまま、僕は家に帰る。
雨が降っている。
とても冷たい。

「おかえり、壬生君」
開いた扉の隙間から光が漏れて、柔らかな声がした。
僕が驚いていると、扉は一瞬だけ大きく開け放たれて、伸びて来た逞しい腕によって、僕はあっという間に室内に引き込まれた。
「たつ……なん、で」
「声がしたから」
ぎゅうっと、龍麻が僕を抱きしめた。
真っ暗な外から突然光り溢れる室内に入ったせいか、頭がクラクラした。
おかしい、何で、龍麻が。
半月程前に、今度は三ヶ月くらいとか言い残してまた放浪の旅に出たばかりなのに。
なんで。
「紅葉」
なんで。
「紅葉の声が聞こえたよ」
大きな掌が、僕の頭を撫でる。
「紅葉」
僕の唇はわなないて、言いたい事の一つも言えやしない。

「紅葉、愛してる」

神様、神様。
僕は生きていてもいいのでしょうか。
この人に求められるかぎり、生きていてもいいでしょうか。
人の殺し方しか知らない僕でも。
自分の為にしか生きれない僕でも。
神様、神様。僕のかみさま

「あいしてる」



書いてる本人が、切なくなるくらいに駄目な彼氏ですね。
Gの時しか頼ってもらえないって…。終わってますよ龍麻さん。

創作者さんに50未満のお題