青色幻想




「収穫はなしです。申し訳ない」
「いいえ、無事に戻っただけで充分だわ。お疲れ様」
 結局少年と少女を保護する事は出来ず、自分の目で確認する事も出来なかった。ただ、事前に住民が非難できた分だけ、被害は今までで最も少なくなった事が幸いといえば幸いか。それでも亡くなった人はいる。
 襲撃されたのとは別の都市にあるホテルでユリに報告を済ませる。ジン達二人が使った宇宙港がグノーシス襲撃で混乱した為、今日はこの惑星で一泊する事になった。物理的に破損した箇所は少ないが、出港しようとする船が想定を大幅に上回りシステムが熱を出したようだ。捌ききった後で良かったと誰もが思っただろう。一晩で復旧できるという事なので、二人はそれを待つ事にした。
 ジンは部屋に入りベッドに腰掛ける。疲れた。
「チーフ、コートがシワになりますよ」
「あぁ、そうでした」
 差し出された小さな腕にコートを預ける。彼女はそれをハンガーにかけて、自分より高い位置にあるフックに椅子を使ってぶら下げた。
「すみません、私が自分でするべきですね」
「いえ、チーフ。大丈夫です」
 軍人だった時から死と隣り合わせの現場には嫌というほど出ている。以前ならこんなに緊張する事もなかっただろうに、昔は若かった。怖いものなんて、祖父の雷と報告書の締め切りくらいのものだったのだ。
「若いって良いなぁ……」
 数日前に通信したかつての上司や、ついさっき連絡を取った彼女に聞かれたら頭の一つも叩かれそうな事を呟いてジンはベッドに倒れた。
「お疲れですね」
「もう若くないって事ですよ。ヘルマー中将やユリさんには内緒ですけれど」
「えぇ、内緒ですね」
「少し前にも結構無茶はしていたんだけどなぁ」
 妹達と走り回っていた半年前も、考えれば確かに疲れは取れにくかったか。十四年の空白を少し後悔した。
「御飯食べに行くのも面倒だな……店屋物でも構いませんか?」
「はい」
 ベッドに寝転びながらこちらを見るジンが何故か面白くて、百式は笑って応えた。初めて見た時にはきちっとしていて厳格そうに見えたのに、実際先程までグノーシス相手に鬼神のような戦いを繰り広げていたのに、この緩み具合といったらない。
「……いやいや、こんなだから駄目兄貴って云われるんです。やはり外に行きましょう」
「はい、チーフ」
 そんな百式の思いを見抜いたのか、ジンは勢い良くベッドから飛び降りた。やはり面白いので百式は笑って応えた。