夏野菜本。




「よし、始めよう」
「はい!」
 ジンとシオンは荒れた土の上に立っていた。そのイデタチは汚れても良い長袖に長ズボン、首にタオルをかけて鍔の広い麦わら帽子、手にはクワ。
「あぁでも、まずは木や石をどけてからだな」
 ひとまずクワは置く。
 二人がいるのは家から少し、二十分ほど歩いた家庭菜園用の畑だった。そこの区画を一つ借りて、野菜を作ることにしたのだ。それなりに長期間、人の手が入っていなかった畑は雑草と呼ぶには些か逞しい植物が生えていたり、よそから追いやられてきただろう石が転がっていた。
 管理人に云われた場所、とは云っても使われていない隣の区画なのだが、そこへと大きい石や木の枝、草をどけていく。それだけであっという間に時間が経ってしまった。 「それにしても今日はいい天気だ」
 作業と休憩で一時間、その最初の休憩でジンは空を見上げた。シオンも汗を拭いながら隣でお茶を飲んでいる。
「疲れた?」
「ぜんぜん大丈夫! 次はあの石をどかしてやるんだから」
 キラリと光る視線の先には、身の半分ほどを地面に埋めた石がある。掘り出したらシオンの膝丈くらいにはなるだろうか。
「期待しているよ」
 第二ラウンド、掘り出したその石は、案の定シオンの膝丈ほどだった。とてもではないが彼女に運べるものではなく、ジンが隣に押し出すことで退場して貰った。
 大きいものを取り除くと小さいものがよく目立つようになる。今度はそれらを取り除く。ふたりでポイポイ隣へと放り投げていく。後でまたクワを入れるし、そこまで取り除くこともないのだが一度気になるとどうにも気になって仕方がない。結局時間いっぱいまで細々とそれらを拾って回った。
「あぁ〜、腰が痛い」
 ずっと屈みっぱなしだったジンがそう云って背を伸ばした横で、シオンもそれに倣う。腰が痛いわけではなかったが疲れていたのは確かだった。