武装していく




「渡した資料は読んだか」
「え、えぇ……」
「顔と名前も覚えたな」
「多分、大丈夫だと思います……」
 不安そうにうつむく片桐の身支度を御堂は構わず続ける。
「ならば大丈夫だ。貴方は会場で人々の話を聞いていればいい」
「話というのは……御堂さ、……孝典くん」
 視線に咎められて途中で呼ぶ名を変える。
「仕事の話だ。私は聖徳太子ではない普通の人間だから、会場全ての会話を把握するなんてことは出来ない」
「それは僕だって」
「だが、一人よりは多くの情報が入る。それに、貴方は私ではないから、私が取り逃した情報を貴方が拾うかもしれない」
「僕にそんなこと、出来るでしょうか」
 もし片桐に犬のような耳がついていたら間違いなくヘタっている。片桐はそれが通常運行で、そんな眼で見つめられるたびに御堂はもう少し虐めたいという気持ちになる。同時に守りたいとも思う。本当にタチが悪い。
「貴方にはそれが出来ると私は思う。が、別にできなくとも構わない」
「え?」
「本音は、私が貴方を連れて歩きたいだけだからな」
 仕上げに少し固めのワックスを髪になじませ、いつもは降りている前髪を軽く後ろへと流す。それだけで普段とは違う表情になる。これに眼鏡でもあれば最高だ。そういえば片桐は最近文字が見づらくなったと言っていなかったか。
「あの……孝典くん?」
 髪を弄ったきり黙りこんだ御堂に、片桐が声をかける。前髪を上げられたことでどうにも落ち着かない。
「大丈夫だ。似合っている」
 不安で前髪を触ろうとした片桐の手を掴んでやめさせると、御堂は普段はあまり見られないその額に口付けた。
「何なら料理の研究をしてもらっても構わないぞ?」
「ははっ……それもいいね」
 少し肩の力が抜けたのか、片桐の顔に笑顔が浮かんだ。
「そうやって笑って、私の隣にいてくれ」
「……それを君が望んでくれるなら」
 二人はもう一度、今度は少し長めのキスをした。



コレを書いてて申し訳ないなと思うのは、御堂ルートをこれっぽっちもやっていないということです。
だけどいいと思うんだよミドカタ。