扉を




「連れて帰ります」
 そう言って景時は、命を無くした身体をそっと抱き上げた。
 この時空の神子は消えた。後は自分達で何とかするしかなかった。
「景時には戻ってもらわなければ困る」
 九郎の呟きに弁慶が肯く。だが果たして戻れるのか。誰が見ても今の景時に魂はない。譲の遺体を布で包み、共に馬上で揺られる彼は虚ろに前を見ている。
 屋敷まで遺体は綺麗なままだった。そういう呪をかけたと景時は言ったが本当のところは誰にも分からない。とにかく譲の遺体は埋められた。
 景時は、数日屋敷に閉じこもった後で前線へ復帰した。
「大丈夫か」
 九郎はそう景時に声をかけた後に、僅かな違和感を覚えた。
「? どうしたの九郎。俺の顔に何かついてる?」
「いや……」
 あまりに以前と変わらないことが違和感といえば違和感ではあるが、そうではない、もっと違う物理的なものだ。だがそれが何かを考えている間に景時は行ってしまった。気のせいかと九郎はそれを頭の隅に追いやった。
 それからしばらくして奇妙な噂が立つ。景時が死人を操るという噂だ。戦場で彼のそばに寄り添い矢を射る人影を何人もの兵が見ている。彼を守るように刀で切られ矢が刺さろうとも次の戦場では何事もなくまた景時のそばに居るというのだ。
「景時。景時!」
 いつぞやの違和感が、核心となって九郎の心臓を締め付けていた。呼ばれた景時が九郎と弁慶に近づく。弁慶が人払いをして、その場に三人だけになる。ただ景時だけが笑っていた。
「知っているでしょう景時。最近、貴方を死人使いだと言う人間がいる」
 口を開けない九郎に代わり弁慶が言葉を発した。
「それは新しい式神ですか」
「…………」
「見せろ、景時」
「……本当に、見たいの」
「あぁ…………見せてくれ」
 できることなら知らないままでいたかった。だが九郎の立場ではそうもいかない。弁慶もそれを知って彼の後ろに立っている。
 景時は笑顔のまま腰にさした短銃をゆっくりと抜き、頭上に掲げた。
 一発、銃声が響く。あわせて一瞬五芒星が空に光った。
 掲げたときと同様、ゆっくりと短銃を下げてそれが景時の顔の横を通ったとき、彼の眼が左右で色を変えたことに二人は気付いて息を止めた。その色を二人は知っている。知っていた。
 景時の後ろから、音もなく人が彼の横へと歩み出る。
 背は景時よりも少し低く、布で顔が覆われ表情は見えない。
「……顔を見せろ」
 景時が肯くのを見て、それは布をはずした。
 九郎は天を仰いだ。弁慶は眼を伏せ顔を背けた。景時だけが笑っている。
「これが、お前の選択なのか景時」
 静かに顔の向きを戻し、震える声で九郎が問う。深呼吸をして弁慶も向き直る。
「いえ、九郎さん」
 それに応えたのは布を取り去った人形だった。景時と同じく目の色を左右で違えた譲が、にこりと笑って答えた。
「これが俺たちの、選択です」



死んだ人の式神化がありなのかどうかは詳しくないんで分かりませんがそういう話。
景譲前提の譲死亡ルートその後。
景時さんはあれだよ、病みそう。てかもう病んでそう。