新
周りの学校に比べれば遅めの卒業式。
ジンは担当するクラスがないので体育館での式が終わった後、しばらくの間職員室で時間を潰していた。お茶でも飲んで思い出に浸るなんていう潰し方ではないけれど。仕事なんて探さなくてもその辺りに転がっているものだ。
最後のホームルームが終わった時間を見計らって職員室を出て校門へと向かう。
すっかりあたりは卒業する子どもたちで埋まっていた。
「先生、さようなら!」
「センセーまたね」
彼らはどんどん先へ行く。
その姿がまぶしくて、ジンは木陰から彼らを見送っていた。
「ウヅキせんせっ!」
「わっ」
誰かが背中に突撃してきて、ジンは木陰から外に追い出された。
「ペレグリー」
「ばいばい、センセー!」
彼女と、彼女のクラスメイトがジンに手を振る。
「またね、ウヅキ先生!」
口々に響くその意味が、一人だけ違うことを誰も知らない。
「またね、皆」
二人だけが知っている。
卒業生はすっかり姿を消した校門。彼らにとっては一度きり、教師にとっては年に一度のイベントの最後は、やはりほんのわずかに寂しさが残る。
引き上げる他の教師の最後を歩きながら、電話を一本。
「今いい? うん、うん、おめでとう。明日なんだけどね、うちのそばのコーヒー屋さんにね、場所分かる? うん、そう、電車に乗る前にメール下さいね」
けれども今年は、少し違う。
「……それは、明日言いますよ」
手が届きそうなすぐそこに、春がもう来ていた。
- [12/09/28]
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