陽も月もおちる




 空と海が混じるその瞬間を知っている。
 とは云ったところでここは空の果て、海を直接見る術など無いのだけれど。
 だがその瞬間は確かに知っている。
「ね、シグルド」
 荒い息の中で彼の顔を両手で挟む。しっとりと手に馴染むその肌。シグルドがキスをしようと唇を寄せるがそれは拒む。
「ヒュウガ?」
 眉をひそめて動きを止めた、シグルドの鼻の先から汗が落ちる。舌を伸ばしてそれを舐める。ほんの少し塩辛い。
「あ?」
 一方的に動きを止められたことに対する不満がシグルドの口から漏れる。構わず彼の鼻から先、塩の味がするその道を舌で辿った。
「っ……おい、ヒュウガ」
 まるで犬が顔を舐めるように舌を這わせた。シグルドが何とか顔を離した頃にはすっかり熱など冷めている。
「ねぇ、海は」
「あぁ?」
 幾分苛立ちを抑えられなくなった声が近づく。
「海が何だって」
「塩辛いんですって。知ってました?」
「知らねぇ」
 そう吐き捨ててシグルドは唇に噛み付いた。その間瞼を閉じぬまま見つめあう。
「貴方の目の色」
 空の色とか海の色とか。
「俺の目がなんだって……?」
「きれいですね」
 落ちればいい。
 おちればいい。どこにでも。



りさいくるりさいくる。