鏡の向こう
誰も、私を見ない。
皆が私の後ろに彼を見る。
だから私は、誰も私が知らないところへ行きたかったんだ。
彼らが私を見つけ出すまではうまくいっていた、のだと思う。
私が壊したあの船は、落ちてしまってはいないだろうか。
「丈夫な体で良かったなぁ」
瓦礫の山から抜け出した私を見て、服をくれた老人は笑った。
「えぇ、まぁ」
彼でなければ死んでいただろう。その方が良かったかもしれない。
出来るわけもないのだけれど。私は卑屈に笑う。
「で、お前さん。これからどうするね」
「……え」
「家に帰るだろ。どこだい」
「帰るところ……」
私はすっかり迷子になってしまった。以前いた町にももう戻れはしないだろう。
そうなら私は、どこへ帰ればいいんだ。
彼らは、死んでしまっただろうか。
壊された船と共に落ちてしまっただろうか。
久しぶりに私を見てくれた彼も、死んでしまっただろうか。
「あの……」
そんなことはないと私の中で声がする。
彼はヒーローだ。
そんなことがあるものか。
「乗り物を、貸してはもらえませんか。あの、ご覧の通り私はお金も何もないけれど、絶対後で返します。車でも、バイクでも、あぁでも自転車はちょっと……」
「……探してはみるが、それで、どこに行くんだい?」
そういえばこの老人も私を見ている。
彼を見たはずなのに、怖がるそぶりを見せない。
もう一度、あの自己中心的で陽気な彼と話がしてみたいと思った。
「スターク・タワー」
それならば私は、急がないといけないだろう。
- [12/09/24]
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