鏡の向こう




 誰も、私を見ない。
 皆が私の後ろに彼を見る。
 だから私は、誰も私が知らないところへ行きたかったんだ。
 彼らが私を見つけ出すまではうまくいっていた、のだと思う。
 私が壊したあの船は、落ちてしまってはいないだろうか。
「丈夫な体で良かったなぁ」
 瓦礫の山から抜け出した私を見て、服をくれた老人は笑った。
「えぇ、まぁ」
 彼でなければ死んでいただろう。その方が良かったかもしれない。
 出来るわけもないのだけれど。私は卑屈に笑う。
「で、お前さん。これからどうするね」
「……え」
「家に帰るだろ。どこだい」
「帰るところ……」
 私はすっかり迷子になってしまった。以前いた町にももう戻れはしないだろう。
 そうなら私は、どこへ帰ればいいんだ。
 彼らは、死んでしまっただろうか。
 壊された船と共に落ちてしまっただろうか。
 久しぶりに私を見てくれた彼も、死んでしまっただろうか。
「あの……」
 そんなことはないと私の中で声がする。
 彼はヒーローだ。
 そんなことがあるものか。
「乗り物を、貸してはもらえませんか。あの、ご覧の通り私はお金も何もないけれど、絶対後で返します。車でも、バイクでも、あぁでも自転車はちょっと……」
「……探してはみるが、それで、どこに行くんだい?」
 そういえばこの老人も私を見ている。
 彼を見たはずなのに、怖がるそぶりを見せない。
 もう一度、あの自己中心的で陽気な彼と話がしてみたいと思った。
「スターク・タワー」
 それならば私は、急がないといけないだろう。



スタバナ。風味。こんなんですかわかりません。

追記。
米版DVD&BD買ったら本編後のまさにここが未公開シーンで入ってんの!
日本語訳早く! と思いながら、ちょっと最後のニューヨークだけ直しておいときます。
公式このやろう……! 入れてくれてありがとう!!