WIBNI Cinder Ella




「そういえば」
 と、リズ母さんが取り出した一通の手紙。
「城からこのような物が来ていた」
「これは、舞踏会の報せですね」
 隣に居た敦盛が手紙を受け取り、ざっとその内容に眼を通す。
「ふーん……誰でも構わないとは太っ腹だな」
 敦盛は手紙を階段の手すりに腰掛けているヒノエに渡した。
「行くのか? 景時」
「そーだねぇ……面白そうだけど、今日は掃除しちゃいたいし」
 俺は窓の外を見ながら答えた。空は青空雲一つ無し。素敵な洗濯日和に既に大量の洗濯物がなびいている。これから家中の窓を開けて、それからはたきをかけて。窓を拭いて網戸も掃除したいし。
「でも、これって結局王子様の嫁探しだろ?」
「そう言えばもうそんな歳になるのか」
「という事は、いい娘に会えるかもね………オレ行こうかな」
「私は……」
「敦盛も行けばいいじゃん。せっかくのお誘いだし?」
「え、……だが私は」
「お前たちが行くのならば、私も行こう」
 母さんがそう言えばそれは決定事項。敦盛も仕方ないというように頷いた。
「始まりは六時からか……五時くらいに家出ようか?」
「そうだな」
「…………景時は行くのか?」
 話をどんどん進める二人についていけず、敦盛が俺の傍へ寄ってきた。
「夕方からなら行こうかな。せっかくの機会だし」
「そうか……」
「でも洗濯物畳んでたりしたら遅れるかな」
「構わないと思う。母さんとヒノエには先に行ってもらえばいい。私も手伝おう」
「ありがと。にしても、苦手なんだねぇ敦盛」
 人と接することが苦手な彼は、小さい頃はいつもリズ母さんの後ろに隠れていたっけ。
「始めよう。景時」
「御意〜ってね。ほら、ヒノエ! どいたどいた!」



「本当にいいのか?」
「構わないって。先行って楽しんでてよ」
 母さんとヒノエを見送り、俺と敦盛は家の中に戻る。部屋の中にはこんもりと取り込んだ洗濯物が。天気がいいからって衣替え用のも皆洗っちゃったからね。
「さーて、取り掛かりますか」
「だーっ! まどろっこしい! 話がすすまねぇじゃねぇか!!」
 突然聞こえた声に驚く俺達。出所を探せば直ぐ傍のたんすの上からだった。良かった、ホコリ払っといて。
「君は?」
「魔法使いってやつだよ。とりあえずお前らとっとと城へ行け。話がすすまねぇ」
「話とは何だ?」
「それはこっちの都合だよ。ほら。しゃらんらー」
 気の抜けた呪文モドキと杖が振られて、山盛りの洗濯物が浮かび、空中でたたまれあるべき場所へ収まっていく。
「はい次! しゃらんらしゃらんら」
 その呪文モドキは何とかならないのかと思っている間に、自分と敦盛の格好が変わってタキシード姿になっていた。
「ほら! 次は移動!」
「ちょっと待ってよ! まだ終わってないって」
 いきなり現れて魔法使いだって言ってどんどん話を進めていくこの強引さ。何なんだ一体。
「何がまだ終わってないんだよ」
「明日のご飯。準備がまだなんだよ」
「飯だぁ〜? んっとに仕方ねぇなぁ………ほいさっと」
 しゃらんらはどこにいったんだ。
 杖が振られて台所の方でなにやら様々な金属音が聞こえてくる。中にちょっとガラス音なんかが混ざっていたりしたので慌てて行ってみれば、湯気を立てたなべが色々。
「あ………美味しい」
「これでいいだろ? じゃあ次移動な。頼んだぜ、白龍」
「わかった」
 自称魔法使いの影から小さな子が現れた。綺麗な銀髪だなぁ。
「城に送ればいいのか。将臣」
「そうだ。頼むぞ〜」
 白龍と呼ばれた子が目を閉じ、ふわりと浮いた。浮いたってもう驚かないよ。と眺めていたら敦盛が律儀に後ろで驚いていた。
「あ、この移動なんだけどな。結構色んな法則無視してるから、六時間くらいでここに引き戻されるから」
「六時間というと、ちょうど真夜中だね。そんくらいあればいいか」
「いや、普通に行ったらいいんじゃないか? 大して時間もかからないし」
「タクシー代かからないならいいじゃない」
 何てのんびり構えていたら、俺達もふわりと浮き始めた。頭上を見ればなにやら暗い闇が渦巻いている。
「え、ちょっと、まっ!」
「将臣。呪文は?」
「適当でいいよ。そうだなぁ、てくまくまやこんって言ってみな」
「わかった。てくまくまくまくやこん」
 違うしっ!
 てか、呪文適当なのか!
 などと色々渦巻いた結果、口から出たのは。
「ちゃんと玄関と窓の鍵閉めといてねーっ!」


『いってらっしゃ〜い』



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