追憶の緋 -1-




聖域の黄金聖闘士が教皇のもとに集められた。多分また新しい黄金聖闘士が見つかったんだろう。
俺は面倒くせぇとボヤきながら、あのうんざりするほど長い階段を登って行った。
俺が教皇の間に入ったときにはもう全員がそろっていて、アフロディーテが俺の顔を見て遅い、と言った。
鼻先で笑って場所についた俺を見て、ちょっと困ったようにサガが笑った。サガはいつもこうして笑う。俺はそれが嫌いだ。
全員がそろったところを見て、教皇が扉の奥に消え、そしてすぐに戻ってきた。
「おいで」
教皇の後ろに隠れるようにして入ってきたのは、赤毛の子供だった。
「アクエリアスのカミュだ」
カミュと呼ばれた子供は、ぺこりとお辞儀をした。目つきが悪い、可愛くないガキだ。見てるだけで嫌になる。
「カミュの面倒はデスマスクがみるように」
予測していた教皇の言葉に、俺は増々うんざりした。勘弁してくれ。仕方ない事だとはしても。
聖域の黄金聖闘士の大半は年端も行かない子供だ。…とは言っても俺たちもまだまだガキな訳だが。それでも他の連中よりはマシだ。
だから今、黄金聖闘士は相棒制になっている。二人一組になって、年長の方が年下の面倒を見るというわけだ。
サガはシャカの面倒を見ている。難しい奴だからサガが適任だそうだ。俺はそうは思わないけど。
アイオリアの面倒は、兄弟だからという理由でアイオロスが見ている。兄弟をそのままくっつけておくってのもどうかと思うが、教皇が決めたんだから仕方ない。
ムゥの面倒は教皇が見てるから問題ない。
アフロディーテはアルデバランの面倒を見ているけど、二人並んだらバランのが背が高いから、どっちが年上かわからない。性格だって、バランの方がディーよりできてると俺は思う。
シュラはミロの面倒を見ている。ミロはせわしない奴だから、シュラくらい無愛想な奴がちょうどだろう。
で、俺は今まで単独だった。ミロの奴が手がかかるからよく手伝わされたけど、特定の相棒はいなかった。
だから今度新しい奴が入ってきたら、そいつの面倒は俺がみなくちゃいけないわけだ。
だから来たくなかった。あぁ面倒くせぇ。しかも無愛想なガキだ。さっきからニコリともしない。
こいつとこれから四六時中一緒にいて、何から何まで面倒見る事になるのかと思うと、ウンザリする。
カミュは俺の前に来ると、無言のまま一礼した。
「デスマスク、カミュは幼い。これから一ヶ月は一緒に宝瓶宮で生活をしてやれ」
教皇の言葉に不承不承ながらも、俺は頭を下げた。
俺だってサガやアイオロスにそうしてもらったんだ。年下のコイツにそうしてやるのは仕方ない。
「それでは皆。これで黄金聖闘士全てがそろった」
教皇の仮面越しの声が響く。この声が俺は嫌いだ。低く、かすれ、くぐもった、得体の知れない声が嫌いだ。
「黄金聖闘士がここ聖域にそろったという事は、つまりは聖戦が近い事を示している。来るべき聖戦を共に戦うものとして、日々の中で絆を深め、切磋琢磨するのだ。よいな」
教皇の言葉に、全員が深く頭を下げた。
俺は、下げたくなかった。聖戦なんて、いつまでもこなければいい。



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