Enfants★Caressants -2-




カミュは、シャカやムゥと仲がいい。サガとよく一緒にいる。シュラとも仲がいい。あと、意外なんだけどミロとも。タイプ、全然違うのに。
俺から見ると、ミロがカミュにつきまとってるようにしか見えないんだけど、カミュはそんなに嫌がっているようには見えない。
うらやましいな。
どうしたら俺、ミロみたいに誰とでも仲良く出来るようになるんだろう。俺だって、カミュと仲良くなりたいのに。
ミロは俺とも仲がいい。
最近、ミロとカミュと俺と、三人で遊んだりする。三人一緒にいるとすごく騒がしいんだ。ミロが騒ぐから。サガやシャカに怒られたりするくらいに。
「でさ、こないだ訓練やってたらいきなり蝶々が飛んで来てさ、それがすっごく綺麗で」
「どんなの?」
「えーとね、緑と黒だった!結構大きくて、ひらひらしてんの!カミュ、名前知ってる?」
「それだけだと、わからない」
「そっかぁ。サガに聞いたら解るかな?」
「かもな」
「んでさ、そしたらその蝶々が丁度デスマスクの頭に止まってさ!」
「わぁっ!すっごいね」
「そうそう。リボンみたいになってて思わず笑っちゃって、んで、したらロスに投げられた」
「わぁ、すごい青あざ…」
「こんぐらい普通だよ。なぁ、カミュ?」
「ミロは集中力がなさ過ぎる」
「んなこたないって!俺めちゃくちゃ集中してるよ!」
「デスマスクにとまった蝶に、だろ?」
明るい声。笑い声。きらきら。
「ミロ!サガが探してたぞ!またなんかやらかしたな?」
デスマスクが笑いながら通り過ぎていく。ミロは違うよ!と叫んでから、小さな声で
「…クッキーのつまみ食いバレたのかなぁ」
と言った。
「じゃ俺、ちょっとサガんとこ行ってくる!すぐ帰ってくるから!」
やだよ。
ミロがいなくなったら。
ミロがいなかったら。
「……」
「……」
声が、ない。
明るい声。
笑う声。
きらきら。
カミュは、笑わない。ミロにしか、笑わない。俺には、笑わない。
俺も、笑わない。笑えない。話せない。言葉が続かない。なんて言ったら良いのか、わからない。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
そんな言葉ばかりが頭を巡って、でも言葉は出てこない。何か、楽しいことがあったはずなのに。昨日兄さんと笑いながら話した話は、何だったっけ。何だったっけ。思い出さないと。
でも、思い出そうとすればするほど、記憶は俺から逃げていく。
何か言わないと。そう思えば思うほど、言葉は俺から逃げていく。
「あ、あのさ」
「…」
「その本、何の本?」
「神話の本」
「そう、なんだ。真面目だね、カミュ」
「そうかな」
そうかな。落ち着いた声。すごく静かで、夜の海みたいな。体の中に広がっていく。もっと、聞きたい。
ミロやサガやシュラにじゃなくって、俺に。
俺に向けられた声を聞きたい。
でも。
声は、続かない。言葉は、続かない。ただ、逃げていく。
本当は、本当は。本当は、話したいこと沢山あるのに。本当は、好きな食べ物とか、好きな動物とか、好きな花とか、好きな天気とか、好きな言葉とか、好きな空の色とか、好きな星座とか、好きな…好きな、色々なものについて。
聞きたい。
聞きたい、のに。



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