Enfants★Caressants -3-




カミュが来て一年半か、それぐらい経ったある日。
先に寝てなさい、と言って兄さんは出て行った。俺は兄さんに出されていた宿題を終わらせると、その言葉に従って素直に寝床に入った。
深夜を回った頃だったと思う。
急に外が騒がしくなって、不安になって外に出たんだけど、なんだか普通じゃなくて。
普通じゃなくて。
普通じゃなくて。
俺は何故か教皇の間に連れて行かれて、それで、こう言われた。



「アイオロスが反乱を起こした」



頭が、白く。…なって。
何も、かんがえが、うかばない。
しろく。
こえが、とおい。
なぜ、とも。どうして、とも。なにも。うかばないで、ただ。
しろく。
いろと、いろが。
なくなって。
まっ、し、ろ。に。












気づかないうちにぽっかりと空いていた落とし穴に、俺は深く深くはまり込んでいったんだ。












牢の中は暗く、湿っていて、黴と苔の匂いがしていた。
俺はそのにおいを嗅ぎながら、何も考えず、何も思わないようにしていた。
寒くて、痛かった。
光はない。届かない。
暗くて、寒い。
そして痛みがある。
痛い。すごく。ずきずきと。痛む。
痛い。のは、どこが。痛いのか。なんて、そん、なことは全然解らなくて。あぁ駄目だ、考えたら駄目だ、考えてはいけない壊れてしまうから、思い出してはいけない思い出すな思い出すな忘れるんだ忘れるんだ忘れるんだ忘れるんだ覚えてちゃいけない考えるな考えるな壊れるから壊れて砕けて粉々になって何も残らないまま消え去って壊れてだから考えるなかんがるなおもいだすなわすれるんだわすれろなにもなにもかもぜんぶなにもなにもなにもすべてなにもなにもぜんぶぜんぶなにもなにもかもなにもなにもなにもなにもなにもかにもなにもなにもぜんぶ。なにも。いっさい。まったく。ひとつも。なにも。なにも。
なにも、かも。なにも。ぜんぶ。ぜんぶ。ひとつも。なにも。
なにも。なかった、なんて。言えない。

誰も、傷つかなかったんだ、なんて、言えない。

喉の奥から嗚咽がもれ、静かな牢獄に響き渡る。
石の壁に反射して、声は膨れ上がり、たくさんの人が泣いてるみたいだった。
それはきっと、俺が知らない所で漏れた泣き声で。
でもその時の俺はそんな事に思いを馳せる余裕もなくて、ただ自分に降り掛かった不幸だけを嘆いた。


牢の中は暗く、湿っていて、黴と苔の匂いがしていた。



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