Enfants★Caressants -9-




俺は一人悩んでいた。
どうしたら、もっとカミュと仲良くなれるんだろう。
一昨日、初めて、カミュの方から俺に話しかけてくれた。
俺があんまり長い間カミュに巻いてもらった包帯を巻いたままにしてたからなんだけど。
カミュが俺を心配してくれた、っていう事が嬉しくて。
俺は何も言えないでただ首を振る事しか出来なかった。
包帯はまだ何となく取る気がしなくて、付けている。傷はもう治ってるんだけど。
なんでだろう。なんでかな。よくわからない。でも、この包帯を見ていると何故だか胸があったかくなる。
あの後も汚い言葉を吐かれたり、殴られたり蹴られたりしたけど、でも俺は平気だった。
あの日みたいに、くたびれたりはしなかった。
でもただ本当に、カミュとどうやったらもっと仲良くなれるかについてが頭から離れなくて。
考える事は苦手だし、考えても考えても答えは出ないから、昨日、ムゥに相談に行った。
ムゥは素っ気ない返事しかくれなかったけど、とにかく話しかけろ、って。
でも俺、ミロみたいに沢山楽しい話知ってるわけじゃないし、知っててもそれを上手に話す事なんて出来ないから。
どうしようかな、って。それについて、さっきからも悩んでる。
悩むと、精度が下がる。さっきから俺の打撃は上手く飛んでいかない。的にしてる岩の砕け方があまり良くない、筋がそれてる。
全く、ほんとに。どうしよう。
そんな風に考えてたら、知っている気配が近づいてきた。慌てて振り返ったら、そこにはムゥとカミュが立っていた。
おどろいた。
だって、考え事の中心がいきなり現れたんだもの。
すごく驚いて、「どうしたの?」と聞いた。
ムゥはいつもの冷たい表情で俺に言った。
「カミュから話があるそうですよ」
カミュは「え」、という顔をした。俺もきっと、そんな顔をした。
「話、って…」
俺の頭の中を、不安がよぎる、ひょっとして、俺がした相談の事、ムゥがカミュに話なのかな。それで、カミュがなんか、嫌な気がしてそれを言いに来たのかもしれない。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。カミュは、カミュは俺の事好きじゃなかったのかも。俺が好きなだけで、仲良くなりたいだけで。
頭の中が赤に染まった。悲しくて恥ずかしくて悔しくて。
「ムゥ、話と言われても…」
カミュは戸惑いながらムゥに言った。
「私に先ほど言った事をそのままアイオリアに言ってやりなさい」
「しかし、それは…」
カミュが、ちらりと俺を見た。
困っている。目が、そう言っている。
「いいんですよ、ほら」
強引に、ムゥが言う。
カミュが、俺の方を向く。
どう、しよう。
どうしよう。
聞きたくない。
聞きたくない。
きらい、とか、やめてくれ、とか、めいわくだ、とか。
そんな言葉。
聞きたくない。聞きたくない。
でも、動けなくて。
真正面からまじまじと俺を見てくるカミュがあんまり綺麗で、いつもはよく見えない、髪の色よりも少しだけ深い緋の瞳が、俺を見てて。目が、そらせなかった。
聞きたくないよ。逃げ出したいよ。
でも、動けない。
カミュは目を数度泳がせた後に、たたみかけるようにこう言った。
「アイオリアと仲良くなりたい。でもどうすればいいのかわからない」
一気にそれだけ言うと、カミュは黙り込んだ。
カミュの頬が、気のせいが赤く染まっている。
白い肌に、ほんのりとした赤が映えて。綺麗で。
でもそれ以上に、言葉が俺を捉えて。

ことばが、まわる。

今、カミュはなんて言ったのだろう。

ことば、が。

今、なんて。

アイオリアトナカヨクナリタイ

ことばが、まわる。

「ほら、いつまでも惚けた顔をしてないで、なんとか言ったらどうです」
ムゥの言葉で、俺ははっと我にかえった。
どうしよう、聞き間違えじゃない、よね。カミュは、今、俺に。
「カミュ、昨日アイオリアが同じ相談をしてきたんですよ」
ムゥがカミュを見て言った。
「カミュともっと仲良くなりたいけど、そうすればいいんかわからない、ってね」
ふふん、とムゥは鼻を鳴らした。
「私に相談せずとも、直接貴方に言いに行けばいいのに、全く」
俺はもう、頭の中真っ白で。
いや、真っ白じゃなくて本当は、赤くなったり青くなったり緑になったりして、本当にどうしたらいいのか解らなくて、ムゥの言葉に驚いているカミュの表情もまともに見る事が出来なくて。
「本当か?」
「えぇ、そうですとも。貴方もアイオリアも、両思いというわけです」
ムゥの皮肉も全然、そんな頭の中に入ってこなかった。カミュも、俺を。俺と、仲良くなりたいって、そんな風に思ってたなんて、全然、少しも気づかなくて。
「しかし、アイオリアは私の事があまり好きではないのではないか?」
カミュがそんな事言うもんだから。
頭の中が今度はかっと赤一色で染まって。
「ちがう!ちがうよ、カミュ!嫌いなんかじゃない!仲良くなりたい!包帯、巻いてくれて嬉しかった!もっと、もっと話したりしたい!もっと!」
慌てて行った言葉はなんだか乱暴で、声も大きくて、あぁ、きっとこんな事言ったらカミュは嫌な思いするだろうな、と頭の片隅で思った。思って、ちょっと悲しくなった。カミュは仲良くなりたい、って言ってるのに。俺がこんな風に怒鳴ったら、きっとカミュは俺の事嫌いになる。
そう思ってたら、カミュは。
カミュは。
「そうか」
そう言って。

わらって。

すごくすごくすごくすごく、俺はすごくすごく嬉しくて。カミュが俺に笑ってくれた事が、俺に言葉を、俺に、他の誰かじゃなくて俺に。本当に嬉しくて、思わず俺も笑って。
そうしたらカミュもまた笑って。
俺たちはそうしていつまでも笑い合っていた。



本当に、本当に。
まだ、この世界に光はあるんだって。



そう思ったから。
思えたから、すごく、嬉しくて。
カミュが笑うから。きらきらと、綺麗な赤い瞳を細くして、笑うから。
ひかりが、みえたんだ。



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