★注意書き★
・お下品です
・エロがあります
・病気ネタのギャグがあります(これ重要)
→身近に、あるいはご自身が、痛風、癌、脳腫瘍を患っている方は、決して読まないで下さい。

エロはぬるいので、それを求めている方はあまり期待しないで下さい。
所詮、絵描きが片手間に書いている品物ですので…;

以上の事をふまえて、お読みください。
もしもこの小説のせいで不快な気分になられても、当方は一切責任が終えませんので、ご了承ください。

愛しいが故に、騒げ愚者共 -前編-




事の発端はシュラのちょっとしたお節介、というか、無意識の一言だった。
「そういえば最近デスマスクを下でよく見かけるな」
シュラという男は、決して根は悪い人間じゃないし、むしろ誠実で堅実な人間であるが、どこか抜けている。というか要領が悪い。
徹底的に、場の空気が読めないのだ。
そのせいで前々から気にかけていた美貌の後輩を、悪人面の同輩に奪い取られてしまうわけだが。
まぁその美貌の後輩は元々悪人面のマフィアまがいを元々いたく気に入っていたし、そもそもシュラ自身アタックらしいアタックをしていなかったのだから、奪われたと表現するのも野暮なのかもしれないが。
ともかくこのシュラ、生真面目な性分に似合わず考えなしな所がある。今回もその考えなしが起因して、本来はばかられるべき言葉をウッカリこぼしてしまったのだ。

美貌の後輩、悪人面の同輩の恋人。カミュの目の前で。

「そういえば最近デスマスクを下でよく見かけるな」、この場合「下」とはアテネ市街のことあるいは近隣の大都市の事で(黄金聖闘士にとってのちょっとした散歩が、一般人の旅行と同じ距離になることは往々にしてある事だ)、生活必需品についてはほぼ自給自足している聖域の住人にとって、街に降りる用事と言ったら限られているわけで。
カミュはその美しい柳眉をきり、とつり上げた。
が、そこは空気の読めないシュラ、気づかないのである
その上カミュの表情の変化はいつも通りごく些細なもので、例の男と親友の金髪蠍くらいしかその心中を察する事は出来ないであろう程度のものである。従って、シュラばかりを攻めるのも不公平かもしれない、が。
「気に入った店ができたようだ」
こういう発言は、差し控えるべきではあるまいか。
ましてや、冷静沈着の仮面の下に燃え上がる熱情を隠す、気分屋にして独占欲旺盛なこの美男子に対しては。
「ほぉ。いつ頃見かけたのだ?」
内心がどれほど荒れ狂っていようとも、一切表情を崩さぬまま話す事が出来るのが、カミュの特技である。迷惑千万な特技だが、害を被るのは主に銀髪と金髪各々一名であるが故に、誰一人として注意しようとはしない。こういうおおらかさが過去の悲劇を生んだ、という事に誰も気づいていない辺り、なんとも哀愁を誘う。
「昨日と、先週の火曜と木曜か。夜半が近づいた頃だったかな」
いらんところで几帳面である。
常識人すぎるほどに常識人なこ奴に、誰かが良識を教えてやるべきだろう。
おそらく、成長過程で銀髪の同輩から常識を吸い取り、一方良識は吸い取られたのであろう。ついでに要領の良さはもう一人の麗しき同輩に吸い尽くされたのだろう。シュラもデスマスクも。
「そうか。夜半近くか」
「うむ」
「シュラもよく出かけるのか?」
「時々な。アフロディーテに引っ張られて行くんだがな」
それからわずかに世間話をしたあと、二人はごく穏やかに別れた。
カミュが去った後、ひとひらの雪が舞っていた事にも、シュラは気づかなかった。





カミュの異変にいち早く気がついたのは、蟹の甲よりも年の功、年が近く付き合いも長い某蠍座の男だった。
「カミュ、なんかあったか?」
「いや?」
ミロは喉の奥で悲鳴をかろうじて押し止めた。
やばい、やばいやばいよ、俺なんかしたっけ、何かやったか?いややってないはず、多分きっと。うん。きっとデスマスクだ、そうだきっとそうだ違いない。
なぜならもしもカミュの怒りの対象がミロだったらば、こんな風に応答する事もないはずなのだから。
そうミロは結論づけると、カミュの方をそっと伺った。
「デスマスクがな」
そらきた、とミロは思った。意図せずして姿勢を正す。
「最近、下に、降りているそうだ」
ミロは今度こそ悲鳴を上げかけた。
ミロの脳裏を過去の思い出が、自分が死ぬわけでもないのに走馬灯のごとく駆け抜けた。
それは酒の席でミロがふざけ半分でカミュに「デッちんが浮気したらどぉすんのぉ〜?」と聞いた時。表情を崩さないままカミュは言った。
「ちょん切るしかないな」
「首を!?カミュ、そりゃひでぇ」
自分もなかなかに浮気性であると自覚し、浮気は男の甲斐性と心の片隅で考えている蠍座殿はデスマスクの擁護にはしろうと、身構えた、のだが。
「はは、まさか。私もそこまで残虐ではないさ」
「へ?」
その意気込みはわずか数秒で消え去った。
「もちろん。あの、余計な陳列物を、に、決まっているだろう?」
サガも真っ青な神スマイル浮かべながらムゥも真っ白なドス黒いオーラ放つカミュは、ミロの魂を小宇宙なしで絶対零度に凍り付かせたのだった。
その笑みと同じ笑みが、いま、めのまえに。
ミロはぎこちない笑みを顔に張り付かせながらカタカタと震えていた。額を何故か、夏でもないのに汗が伝う。
「どうしたミロ、熱いのか?暖房落とそうか?」
まぶしい、まぶしいよその笑顔…!!
ミロは、せめて、せめて自分に被害が及びませんようにと、アテナ神殿の方角を向いて祈ったのだった。









とまぁ、可哀想にその行く末を誰にも心配されなかった某蟹男はといえば、暢気に惰眠を貪っていた。
嵐の前の静けさ、とでも言うべきであろうか。花は咲き、鳥は飛び、風はそよぎ、日は暖かく、蟹の目つきは悪く、財布は薄く、髪もちょっと生え際が…
「何余計な事言ってやがッ………ぐぅ」
己の本分を忘れて侵入してくるとは不届き千万。デスマスクはお約束通りすやすやと眠りについたのだった。
昼も過ぎたあたり、腹が減ったのかデスマスクはむっくりと起き上がった。
大仰に欠伸し、ぼさぼさになった頭を無造作にかき回す。もう昼か、そろそろ飯でも作らないとな、そう思って成人男性一人に対して必要以上の大きさを持つベッドからすとん、と降りる。
暖かい秋の日差しを浴びながら、背伸びをする。今日も気持ちのいい天気だ。

が、嵐はすぐそこまでやってきていた。

昼休みになった瞬間、カミュは執務室から風のように消え、巨蟹宮に続く長い長い階段を颯爽と下っていった。その背中を見ながらミロは銀髪の先輩の冥福を祈ったのであった。ちなみに、助けにいく気は毛頭ない。馬に蹴られて死にのがオチだ。
カミュの気配を巨蟹宮の回廊に感じたデスマスクは、気難しい王子様を迎え入れようと立ち上がった。どうせ飯でもたかりに来たんだろう。
回廊にノコノコと出てきた獲物を見て、カミュは婉然と笑った。
デスマスクはそれを見て、あぁ俺の恋人はやっぱり別嬪さんだと思った。



「オーロラエクスキューション!!!!!」



天災は、往々にして突如舞い降りてくるものである。
「うぉわあッ!……なにしやが…!」
「オーロラエクスキューション!!!!!」
「どわぁあぁぁッ!」
デスマスクに皆まで言わせず、すかさず放たれる水瓶座最大の拳。
しかも狙いは…
「カミュ!いきなりなんだ!っゆーかなんで股間ばっか狙ってくるんだよ!!」
これが本当のオーロラエクス急所ン、など駄洒落ている暇もなく、オーロラ色の小宇宙がデスマスクの股間めがけて飛んでいく。
どうやら、本気でちょん切るつもりらしい(つまり凍り付かせてその後自らの手刀で切り落とすつもりなのだろう)。
ここまで自分の言葉に誠実なのは、それはそれで潔い
「安心しろ、デスマスク。私は去勢されたお前の事も愛せるぞ?」
爽やかにまぶしい笑顔でカミュは言い切った。
「むしろ、夜の立場を逆転させても構わん」
「結構です!お断りします!つーかなんでだよ、なんで俺が股間狙われなきゃなんないわけ!?」
私めに言われましても。一介のナレーターでございます故。
「くく、先週の火曜と木曜、そして昨夜もだったようだな…」
美人が怒ると、怖い。
口の端をつり上げて笑うカミュは、もはやその怒りを隠そうともしない。隠そうともしていない上にどこかブチ切れたらしく、まさしく般若のような顔でデスマスクに語りかける。
殺 さ れ る !
頭の中でそう叫んだデスマスクの判断は決して誤っているものではない。が、しかし。
天災は本人が逃れたくても逃れられないから天災というのであり、不幸は本人が逃れようとしても追ってくるから不幸というのである。次から次へと休む間もなく、また疲労した様子もなく打ち出される渾身の攻撃を回避する事で精一杯なデスマスクは、逃げ出したくても逃げ出す事などできなかった。
そしてなにより、逃げ出した後が、怖かった。
「何を逃げるのだ、デスマスク。素直に喰らえば良かろう。そんな風に回避していては、疲れるのではないか?」
相変わらず神スマイルを浮かべながらカミュは優しい声音でデスマスクに語りかける。
コワイカラヤメテ!
デスマスクの心の叫びは声に出される事はなかった。もはやカミュのピントのずれた、デスマスクにとっては何がなんだか解らない発言への突っ込みも入れられなくなってきた。オーロラエクスキューションの速度と威力がどんどん上がっていったからだ。
デスマスクが本気で死、あるいは大事な息子の喪失を覚悟した瞬間、思いも寄らぬ横やりが入った。
「何をしているのです?」
此の並々ならぬ光景の中で至極冷静な声を上げたのは、聖域の黒羊こと牡羊座のムゥであった。ご近所さんが騒がしいのを聞きつけて、何か楽しい事でもあったのかと様子を見に来たようだ。
常日頃はいっぺん泣けばいいとかムゥに対して思っていたデスマスクだが、この時ばかりはムゥの姿がまぶしかった。
救世主!
カミュはムゥの声を聞いた瞬間、般若から好青年に顔を戻した。その変わり身の早さたるや、デスマスクが要らん感心をしてしまったくらいだ。
「なに、この蟹がちょっと私に隠れて悪さをしているようだったのでな。ちょっと痛い目を見てもらおうかと思っているのだ」
「あぁあ、なるほどそうでしたか。では存分にやって下さい」
黄金スマイルを浮かべたムゥは、デスマスクの淡い期待を粉々に粉砕し尽くした。ヤロゥ、やっぱぜってぇいっぺん泣かしてやる…!
むしろ自分が半泣きの状態なデスマスクを見て、ムゥは優雅に微笑んだ。
「今度は、何をしたのです?」
カミュのお気に入りのグラスをデスマスクが誤って割ってしまったがために巨蟹宮ごと氷漬けになった事件はまだ記憶に新しい。その前は、カミュの弟子がくれたプレゼントをやっぱり誤って踏んづけてしまったとか、そういう事件もあった。そのときは確か、シベリアの氷原でシベリア仕込みの足固めをされ(強度は冷凍棺級)放置されたのだったか。
「なに、ちょっと最近下に気に入りの店ができたようでな」
オーロラエクスキューション!!!!!
「ほぉう、下に、ですか」
オーロラエクスキューション!!!!!
「や、待てそれは…!」
オーロラエクスキューション!!!!!
「私相手では不足のようだ」
オーロラエクスキューション!!!!!
「ちがっ……!」
オーロラエクスキューション!!!!!
「まったく、これだけ尽くされてまだ足りないというのですか、この蟹は?」
オーロラエクスキューション!!!!!
「いや待て。尽くしてるのはむしろ俺…!」
オーロラエクスキューション!!!!!
「くだらない事をもう考えないように」
オーロラエクスキューション!!!!!
「軽く凍らせて」
オーロラエクスキューション!!!!!
「切り落としてしまおうかを思っているのだよ」
オーロラエクスキューション!!!!!
「あぁ、なるほど。それは素晴らしい考えですね」
オーロラエクスキューション!!!!!
「これで、聖域の歩く公序良俗違反男が消えるわけですね?」
オーロラエクスキューション!!!!!
「死ぬから!まじで死ぬから!!」
助けて女神!と、冥界のふちでも考えなかった言葉が頭を駆け巡る。これってひょっとして女神の策略じゃネェの、俺があの小娘にもう少し忠誠心を抱くようにとかって言うさぁ、それならそれでいいから信仰でも忠誠でも皿洗いでも何でもするから頼むから誰か助けて、この俺を!
「君達!」
デスマスクの祈りが神に届いたようだ。残念ながら神本人は現れなかったが、神に最も近い男が現れた。
後光を背負って現れた金髪の似非仏陀は、三人を見てフルフルと肩をふるわせた。
「先ほどから君達は何だね!」
びしっと繊細な指が、三人を示した。人を指で差すなんて行儀が悪いですよ、シャカ、とムゥがこっそり呟いていた。こんな時も冷静至極な黒羊。
「さっきからなんだかんだと騒ぎ立てて、少しは周辺の迷惑というものも考えたまえ!寒いのだ!」
どうやら、カミュのオーロラエクスキューションの嵐に周辺気温の低下にしびれを切らしたようだ。だってシャカ、薄着だし。もう冬も近いというのに。
怒りに肩を震わせ、鼻息も荒く目を吊り上げるシャカを見て、カミュはそっとムゥの背後に回った。
あ、とデスマスクが思った瞬間である。
「喰らえ! 天 魔 降 伏 !!!
「クリスタルウォール!!!」
「ぴぎゃぁっ!!!!」
三人で、連帯責任のはずでしょ…?ねぇ?そう思いながら、デスマスクはそっと意識を手放した。
「すまなかったな、シャカ」
「いや、わかってくれれば良い」
尊大なシャカに対して、しかしカミュは丁寧に謝った。律儀である。一方シャカは、完全に伸びきっているデスマスクを指差した。
「蟹がまた何かしたのかね?」
「下に行っているんですって」
「ほぉ、それはつまり」
「浮気、しているようだな」
カミュの爽やかな笑顔を見てさすがのムゥも、引いた。蟹、御愁傷様。
それでは、と、三人は別れた。ちなみに、デスマスクはごく自然に放置された。こんなに一途な恋人を裏切った輩が悪いに決まっているからだ。ここら辺の呼吸の合い方は、さすが同級生といったところか。
カミュはシャカと上へ。ムゥは一人下へ。デスマスクは一人床へ。それぞれ道をたどった。




「カミュ」
「なんだ、シャカ」
「無理をせずとも良い」
「?」
「涙を、笑顔で隠す必要はない」



後編へ→