兄の恋物語 3
「世界には自分に似た人間がいるといいますが………」
二人だったかな、三人だったかな。ドッペルゲンガーというやつだ。
茶碗を手に、私の向かいで幸鷹は本当に信じられないという顔をしていた。
話の相手はわかっているさ。彼のことだ。先を越されたんだ。悔しいったら。
「今朝自分にそっくりな人を見たんですよ」
「へぇ、どんな人?」
知らないという態度を取る。一応。
「駅のホームで会ったんですが、同じ大学でしたよ」
「良く噂にならなかったね」
「まぁ、文理と学年が違いましたからね。一応広さはある学校ですし」
「で? どんな子だったの。幸鷹は、顔だけはいいからね。性格が違えば可愛いだろうに」
「別に兄さんに可愛いと思われなくても結構ですが」
きっちり私を睨みつけて、味噌汁を飲む。
「真面目な子ですよ。ちょっと失礼かもしれませんが、確かに可愛いです」
「二人並んでいるところを見て見たいな」
と言って私も味噌汁を飲む。危ない。頬が緩んだ。
「一緒の電車で大学へ行ったんですけど、会った友人皆に言われましたよ。お前には弟がいたのかって。途中で彼の……あぁ、彼は鷹通君と言うのですけど。彼の友人にも言われました。鷹通のお兄さんですかって」
「そんなに似ているのかい?」
「たぶん兄さん以上に」
「酷いな」
「そんなことで凹むタマですか」
「君以上には凹むさ」
「嘘吐き」
「その通り。で?」
「私でも驚くんですから、きっと兄さんも驚きますよ。今度会って下さい。鷹通君にもお兄さんがいるようで、私を会わせたいようでしたし」
「是非お願いするよ」
一足先に食べ終え、食器を持って立ち上がる。シンクへ食器を下ろすと幸鷹に背を向ける形になる。心置きなく頬を緩ませた。思わぬところで彼と会えることになるとは。何だこのていたらくは。本当に初心な子どものようじゃないか。全くみっともないったら。全く幸せだったら。
とりあえず今はその表情を隠せるだけの年月は重ねた。よしその何時かにむけて心の準備を…
「兄さん」
「はい?」
少し声が裏返った。
振り返った先にあった幸鷹の表情は、何だか怪訝な表情で。
「そういえば、何時だったか変なこと口走りませんでした?」
「そーだったかな。記憶にないけど」
いつも通りに笑ってみる。
「……………………やめようかな」
「何で!?」
た、立場弱いなぁ……
我慢我慢。
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