Enfants★Caressants -4-




「どうだった?」
私はミロに問いかけた。
「やせてた」
ミロはうつむいたまま答えた。
いつも元気で、笑っていて、せわしなく飛び跳ねているミロがこんなに元気がない所を、私は初めて見る。
「やせてて、苦しそうで、傷が沢山あった」
きっと、心ない兵士によって付けられたのだろう。
私は人知れず顔を歪めた。
できることならば、手当をしてやりたい。
次は食べ物だけじゃなくて、包帯や薬もミロに運ばせよう。
「食べ物は」
「食べてた。でも野菜は食べにくそうだった」
きっと、体が弱っている。無理もない。ここ数週間、水以外はほとんど何も口にしていないのだろう。
私はため息をつくことも出来なかった。
「……なんでカミュはそんなに冷静なんだよ」
相変わらず無表情なのだろう私の顔を見て、ミロが言った。

冷静なわけ、ない。

アイオロスが死んで、しかもそれは慕っていたシュラが手を下したもので、その上、一番頼りにしていたサガももういない。
仲良くなりたいとずっと思っていた獅子は、牢の中だ。
サガはどこへいってしまったのだろう。こういう時にこそ、あの人の力が欲しい。
私がもしもあの人のようだったら。
私があの人のように人を救うことが出来たら。
そこまでいかなくても、せめて。
せめてこの隣にいる友人のように明るく、屈託なく笑うことが出来たなら。
少しは、彼の役に立てただろうに。
少しは、薄暗い牢に光を運ぶことが出来ただろうに。
頭の中で繰り返される言葉は、行き場のない屍の様で、私は何もすることが出来ないで呆然としている。
立ち尽くすことと冷静であることは違う。
私は、無力な自分に絶望しているだけだ。冷静なわけ、ない。
ただ、何も言えないだけだ。何もできないだけだ。
笑うことも、苦悶に顔を歪めることも、お前のように、涙を流すことも。
「私はお前とは違うから」
「何それ、馬鹿にしてるの?」
ミロが頬を膨らませる。違うよ、馬鹿になんかしてないよ。
羨ましい、だけだよ。
「してない。アイオリアが出てきたら、その時お前のその明るさがきっとアイオリアの助けになるよ」
私には、できないことだ。
できることなら、私が。でも無理なことだ。私には、できない。
「心配されることが苦しいなんてアイオリアが思わないように、笑っていればいい。それで、いいんだ」
私の言葉を、ミロはじっと聞いていた。
青い、深い色。透き通ったギリシアの空が、そこにある。
私の、呪われた血の色とは、違う。
「うん。わかった。笑ってるよ」



ああ。羨ましいよ、ミロ。
お前のことが、本当に。羨ましい。



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