Enfants★Caressants -6-




牢から出ても、俺は獅子座だった。
みんな、俺のこと、心配しててくれて。俺が獅子座のままってことが解った時、みんな、喜んでくれた。
カミュ、は。わからない。いや、だったのかもしれない。
俺が…、俺が、獅子座のままなこと、嫌だったかもしれない。
だってカミュ、みんなが「良かったな」って言ってくれた時、一人だけくるりと振り返って、帰って行っちゃったし。


やっぱり俺は。


でも、考えないことにした。
考えないようにしよう。どんなに考えても、何も変わらない。どうしようもないんだ。
俺は、もう、一人なんだ。
だから仕方ない。仕方ないさ。せめて、せめて獅子座としてしっかり、自分の仕事をしないと。
一生懸命強くなって、一生懸命はたらいて、そうしたら、俺が一杯頑張ったらひょっとしたら、教皇は俺の兄さんのことも認めてくれるんじゃないかな、って。あのアイオリアの兄なのだから、反乱など起こすはずがない、きっと何かの間違いだったんだ、って。ひょっとしたら。そう思ってくれたら。
そうなったら。
兄さんのお墓が、できるはず。
聖域に。
他の聖闘士と共に。
待ってて、兄さん。俺、頑張る。一杯頑張って、強くなって、他の誰からも尊敬される様な聖闘士になって、そうしたら。そうしたら、もしかしたら。きっと。





でも俺を待っていたのは、罵倒と暴力の毎日だった。




その日俺は本当に疲れきっていて、つらくって。
でもつらい、ってどうしても言えなくて。誰にも、言えなくて。
でもつらくて。
笑いたいけど、笑えなくて。早く怪我も小宇宙でどうにかしたいけど、どうにもできなくて。
力が、入らなくて。
誰かと一緒にいたら、誰かに見られたら、何もかもが壊れてしまいそうで。
決意も努力も、何もかもが砕けてしまいそうだったから。
だから、一人になりたかった。
誰もいない所で、一人になりたかった。
人がいないところで。
だから、訓練場の近くの茂みの陰で、うずくまってたんだ。
一人になったら、ちょっとほっとした。
ほっとしたからだと思う。
カミュが近くに来ていたことに、全然。
少しも、気づかなかったんだ。

顔を上げた時、ちょうどカミュは俺の隣を歩いていた。
心臓が、飛び跳ねて。
壊れそうなくらい。
どうしよう、って、思って。でもどうしようもなくて、だってもうカミュは俺の隣だから、今更怪我治したって意味ないし。
びっくりして顔を上げた俺を、カミュはいつも通り、静かな目で眺めて通り過ぎて行った。
かぁッて、頬が熱くなった。
きっと、不甲斐ない奴だ、って、思われた。こんな風に、うずくまって。傷まみれで。弱くて、みじめな人間だって、思われた。
恥ずかしくって。
悔しくって。
俺はカミュの後ろ姿を見送りながら、唇を噛み締めた。

なかない。

泣いたら、きっともっと駄目な奴になってしまう。だから、泣かない。
泣かない。
俺は、膝に顔を埋めた。
泣かないよ。
俯くだけだよ。
この頬の火照りが消えるまで。



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