Enfants★Caressants -7-




しばらくして、焼け付くように扱った夕日がほとんど沈んだ辺り。
誰かがまた俺の前に立った。
俺は静かに顔を上げた。
まず、足が見えて。
装甲にくるまれた膝が見えて。
白い手と、抱えられた箱と、それと、それと。
鮮やかな紅。
夕日の残り火を受けて、いつもよりも赤く、鮮やかに、輝く紅で、カミュが。
立っていた。
体、が。
凍り付いたように、動かない。
俺は、何も、言えないで。
怖くて。
カミュに嫌われたら、って思って。
でもなんでカミュがまたここに来たのか解らないで、なんで、どうして、って。
驚く俺を気にした風もなく、カミュはすっと俺の隣に座り込んで、抱えていた白い長細い箱を開けた。
「……な、に………。こ、れ」
とぎれとぎれに、ようやく声を出した俺に、カミュは首を傾げながらこう言った。
「見れば解るだろう。救急箱だ。腕を出せ、消毒する」
カミュはそう言いながら、ほとんど無理矢理俺の腕を掴んで、ガ−ゼにしみ込ませた消毒液をあてた。
ひやり、として。
ぴりり。として。
しみて。
痛くて。
でも、痛くなくて。
痛みが、消えて。
包帯と、絆創膏が増えていく度に、何故か、何故か。
さっきよりも、泣きたくなって。
なんで、なんだろう。わかんない、や。わかんない。でもなんか、鼻の奥が痛くなって。
でもさっきみたいに俯きたいとは、思わなかった。



「終わった」
最後にカミュはこれだけ言って、立ち上がった。
辺りはもう薄暗くて、星もちらほら見えている。
カミュは立ち上がると、そのまま歩き出した。
細い足が、大地を蹴る。柔らかな動き。すごく、綺麗で。
揺れる髪が、夕焼けの赤が。
俺は急いで立ち上がった。
「あ、ありがとう!」
カミュが立ち止まる。
髪が揺れる。
白い頬が、見える。
カミュが、こっちを、向く。
俺を。見る。
「ありがとう!」
さっきより、少しだけ大きな声で、繰り返す。
俺ができる、精一杯の。
カミュが、俺を見る。
カミュの目が。俺を。
サガでもミロでもシュラでもアフロディーテでもシャカでもムゥでもアルデバランでもデスマスクでもなく、俺を。
俺を、見て。

そして。


ふわり


って。
笑顔が。笑顔が。
笑って。温かで、柔らかな。




カミュが俺に、俺に笑った。



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