エテルネル -2-




「紅葉……」
ベットでくつろいでいた壬生の上に、龍麻がのしかかってきた。
今しがたシャワーを済ませてきた龍麻の髪は未だ水滴が垂れていて、壬生が読んでいた文庫本のページにぽたぽたと数滴跳ね落ちる。
「こら、本が」
「くれは」
文句を言う壬生の口を龍麻がやや乱暴に塞いだ。頬を両側から包み込み、逃げられないようにして貪る。
いつもは浅く触れるだけの口付けから始まるのに、今日は何故か最初から深く、強く、激しく、舌を絡められた。
熱いぬめりが口の中で暴れる。無意識の内に自らの舌を絡め返せば、唾液が溢れて、口元を伝った。零れる唾液を呑み込もうとすると、喉が不自然なくらい大きく鳴って、壬生は羞恥に赤くなった。
「紅葉……」
龍麻が壬生のTシャツを捲し上げた。露になる胸板に、キスの雨が降らされる。キスを落としながら、龍麻は両手で壬生の体を愛撫した。
暖かな掌が、壬生の体をなで回す。指先がなぞる、脇腹も臍の周りも、どこも壬生が感じやすいポイントだ。
片方の手が壬生の乳首をつまみ上げた。そこはもう外気に触れて立ち上がっており、簡単に龍麻の愛撫に晒された。軽く爪を立てられ、壬生から甘い鼻息が漏れた。
「あ……たつ…」
「紅葉」
囁く息が赤くなり始めた乳首に掛かる。ぴくりと壬生の体が震えたことを龍麻は見逃さず、そのまま舌をそこに這わせる。
掌よりも一層熱い物を押し付けられ、壬生の呼吸が乱れた。唾液を絡めて舌先で転がせば、そこは増々赤みを増した。徒に歯を立ててみれば、壬生はひくりと震えて龍麻の肩を掴んだ。
「なに?こっち?」
口角をあげて龍麻は笑うと、壬生の熱に手を重ねた。
「……っん、ぅ」
頬を染めて壬生が震えた。重ねられた手は快楽を引き出そうと妖しく蠢く。こねまわされる様にスウェットの上から撫でられ、壬生のペニスはあっという間に芯を持って勃ち上がってきた。
「たつ……あ、や…」
身を捩る壬生に構わず、龍麻は服の上から口付けを落とし、そして甘噛みした。
「っく…」
びくんと壬生の体が跳ねる。龍麻は楽しそうに熱く固くなってゆくそこに歯を立てた。
布越しの刺激は強いようでもどかしく、壬生の腰は揺らめいてもっともっとと龍麻にねだる。だが龍麻はそれくらいでは容赦しない。清廉でプライドが高く、人前では決して弱みを見せない壬生が、自分の前で快楽に流されてゆく様を、龍麻は見たい。
「も……たつ…」
龍麻を見る目はもう涙目で、声も震えている。精一杯のおねだりに、龍麻は溢れてくる笑みを隠せない。
最後に一度、強めに噛み付いた後、龍麻は邪魔な布を引き剥がした。ずり上がったTシャツと、脱がされてむき出しになった下半身は、一見間抜けな姿の様にも見えるが、ストイックで几帳面な壬生が乱れた格好をしているだけで、龍麻は興奮を覚えた。
露になった壬生のペニスは、既に先走りの雫でぬらぬらと光り、解放を望んで天に向かってそそり立っていた。
「ぃや……だ…」
真っ赤になった顔を掌で顔を覆う壬生を見て、龍麻は酷薄なようにも見える笑みを浮かべた。
「馬鹿だなぁ、壬生君は」
「っは!」
濡れる先端を舌先で舐め上げられて、壬生は仰け反った。
「そんな可愛いことしてると」
「んな…ぁ、う……ッ」
筋に沿って舌を這わせれば、硬いそれは波打って素直に感じていることを伝えてくる。
血管の浮かび上がるそれは、しなやかな壬生の身体には不釣り合いなくらいグロテスクだった。

「滅茶苦茶にして、壊したくなるじゃないか……」

壬生の背筋が一気に粟肌立った。
熱いそこを、龍麻は掌で包み込み強く握りしめる。
「く…ふぅ…っ」
壬生の身体が縮こまった瞬間を見計らって、龍麻は壬生の膝裏に腕を滑り込ませた。肘に脚をひっかけて掬い上げる。
「あっ、や…」
脚を無理に開かされ、秘部が隠されることなく龍麻の目の前に晒された。龍麻は素早く腕を壬生の腰に絡めて固定する。
羞恥心から壬生は抵抗したが、龍麻にホールドされていては、腰を揺らめかせるそれはむしろ誘っているようにしか見えない。
「や、や……だ、たつ…」
背中で自重を支えながら、壬生は龍麻に哀願した。
「やめるの?」
にっこりと、いつもの無邪気な表情のまま龍麻が言った。その笑顔が、壬生に安心よりもむしろ不安と恐怖を抱かせる。ぞくりと背筋が震えた次の瞬間に、龍麻の掌が壬生のペニスを擦り上げた。
「っあ!…ん、やッ、た…たつ…ッ!」
節高い指が、きつく壬生を締め上げて上下する。付け根から、くびれを通って先端まで、壬生の快楽を無限に引き出そうとする指の動きに、壬生は成す術もなく翻弄された。硬く熱を持っていたそれは龍麻の指の動きに反応してびくびくと震え、壬生の喉からは甘い息が絶え間なく漏れた。
「壬生君」
なだめるように優しい声に、思わずきつく閉ざしていた視界を開く。そこには相変わらず蕩けそうな程に穏やかな龍麻の顔があった。しかしその顔と共に、開かされた太ももと、赤黒く染まりながら解放に向けて震える自らの肉棒が視界に入り、壬生は再び恥ずかしさの余り目を潤ませた。
「イかせてあげるね」
「ひ、っく…んんっ!」
叫びそうになる口元を必死の思いで覆い隠し、声を殺す。絡み付いた指先は戸惑うことなく壬生を頂点まで導き、放たせた。
白濁とした粘着質の液体が、飛び跳ねて壬生の腹にかかる。液体の感触は熱く、自らの劣情をそのまま表現しているようで、壬生は目を開けられなかった。
目をきつく閉ざし、口元を引き結ぶ壬生を観て、龍麻はまた少し笑った。
腹にかかった液体を指で掬うと、ぺろりと味わった。口に広がるえぐい苦みも、壬生のものと思えば龍麻にとっては甘い。
「ば…か…!」
指が腹に触れたことを感じ取ったのか、壬生が薄目を開けて龍麻を睨んだ。赤く染まった目元で睨まれても迫力はなく、潤んだ目がむしろ欲情を誘う。
「甘いよ?」
にこっと笑って見せれば、また赤くなる。
口角をあげたまま、龍麻は指に壬生の精液を絡めた。自分のものだったら触るどころか見るのも御免被りたいが、壬生のものならばいっさい気にならない。なんと都合のいいことかと、くつくつ喉を鳴らす。
精液を存分に絡めた指先を、壬生の秘部に押し当てた。
ぷつり、と、そこはあっさりと侵入を許した。
「もう、柔らかくなってるのかな。触ってもいないのに?」
「な…ッ、ば…ッ!」
声を荒げる壬生には構わず、勢いに任せて指を差し挿れる。
「っふ、う…」
異物感に壬生は眉を顰めた。しかしそれが不快感を伴うものではないことを、龍麻はもう知っていた。
壬生の方も、違和感を感じるのは最初だけで、それがやがて快楽へと繋がってゆくことを承知している。だからこそそこは拒むためというよりも、むしろ誘い込むような動きを見せて、龍麻を呑み込んだ。
「あぁ、壬生君はどんどん、やらしくなってくね」
ぐちゅぐちゅと音を立てて、人差し指でそこを掻き回す。壬生が抗議の声を上げる前に、ささやかな膨らみを見つけ出してそこを撫でた。
「っん!」
びくんと身体が跳ねて、秘部が龍麻の指を締め付ける。
「ここ、ね」
円を書くようにして、そこを擦る。龍麻の指先が感じやすい膨らみを往復するたびに、壬生は声を漏らして震えた。
「あっ、や……め、も…や、だ…っ」
懇願するように見上げてくる目線を、龍麻は笑顔で受け止める。
ぐっと指を側面に押し付けると、できた隙間にもう一本の指を滑り込ませた。こちらも壬生の放った白濁で濡らされており、あっさりと内部へと吸い込まれていった。
「ひ…や、ぁ…く……ッ」
濡れた音を立てながら内側を掻き回され、壬生は唇を噛む。
「こら」
少し怒ったような声で言うと、龍麻は壬生の唇をぺろりと舐めた。柔らかい感触に壬生の唇は震え、か細い鳴き声がそこから漏れた。
内側に潜り込んだ指は、相変わらず秘部をほぐし掻き混ぜ押し広げている。そこはもう赤く染まり、龍麻の目の前でひくひくと震えて見せた。
「ほしい?」
「ばッ、んぁ……やっ、あ」
幼い口調で壬生に尋ねる龍麻を睨むこともできず、壬生はただ声をあげて鳴いた。
「ほんと、ダメだなぁ」
龍麻は苦笑して壬生の頭を撫でた。
「いつか俺、ほんとに」
そこまで言うと龍麻は言葉を切って、代わりに自らのペニスを壬生の柔らかくなった秘部に押し当てた。
「ッ、や、め!あ、ぁあ」
ねじ込まれるそれは燃えるように熱く、圧倒的な質量と硬さを持っていて、壬生は背中を引き攣らせた。先ほどから膝は抱えられたままで、ほぼ垂直に貫かれる。ぐいと龍麻が腰を進めると、熱いペニスは完全に壬生の内部に飲み込まれた。
「ひっ、く…ぅうん…あ、や……」
痛いくらいに龍麻を締め付けながら、壬生はびくびくと震えた。貫かれたそこから痺れが四肢にまで広がり、全身を犯されているような気がする。
潤んだ瞳から涙がこぼれ、紅潮した頬を濡らす。龍麻はそこに唇を寄せると口づけるように涙をさらった。壬生はその感触にすら反応してしまう。ひくひくと震える後孔に刺激され、龍麻の肉棒が一層膨張する。
「あ…そんっ、ば、かぁ……」
「可愛いからいけないんだよ、紅葉がね」
龍麻がぺろりと自分の口元を舐めた。それは獲物を前にして獣がする舌なめずりで、この後一体何が起こるのか、壬生に予感させる。それは恐怖以上に期待を伴ったもので、壬生の秘部は一層龍麻を締め付けた。
龍麻はその感触に喉の奥をククッとならすと、軽く腰を揺さぶった。細く甘い声が、壬生の口から漏れる。
「いっぱい、気持ちよくしてあげるね」

「ん…っふ、う……や…も……」
「んん〜、どうした〜?」
壁に手をついた姿勢で、壬生は後ろから貫かれていた。龍麻は腕を壬生の胸に回して身体を支え、ゆるゆると腰を揺らしている。
回された手は先ほどから乳首ばかりを弄っていた。腰の動きも緩慢なためイクにイケず、壬生は朦朧とする頭で龍麻に懇願した。
先ほどから絶頂は幾度も迎えたが、それは射精を伴ったものではなかった。
放とうとすると龍麻に根元を押さえられる。しかし身体はしっかり快楽の絶頂に昇り詰め、頭の中は幾度も真っ白になった。だが射精を伴わない絶頂は解放感よりもむしろ物足りなさを煽る。
焦らされる熱さと昇り詰める熱さと、二つの熱に翻弄され、壬生の脳内はもうとろとろに蕩けてしまっていた。
しかしそれをわかっていながら、龍麻はなかなか壬生を離してくれない。今も後ろから抱きすくめながら、首筋から漂う汗の香りを味わい、また舌先や歯を使って壬生の感触を確かめている。
「あ…た、つ……」
首をひねって後ろを見、龍麻に目で訴えかける。理性の欠片も残っていない顔を、龍麻は満足げに眺めてから、優しく口づけた。
「ん……ふ…」
音を立てて舌を絡める。流れる唾液は、嚥下される事なく壬生の顎を伝い垂れた。唇を離せば、息苦しさからか壬生は大きく息を吸った。その拍子に龍麻を包み込むそこが締まる。内壁と熱との擦れ合いに、壬生は儚気に身体を震わせた。
「ん……も、ぅ……た、つ…」
涙で見上げる壬生の頬に軽い口づけを落としながら、龍麻は壬生の乳首をつまむ指先にきゅっと力を入れた。
「っく…!あ、やぁ……」
「イキたい?」
龍麻の問いかけに、壬生は夢中でこくこくと頷いた。
いつもであれば決してしない仕草を、龍麻は目を細めて見下ろす。龍麻自身もいい加減限界が近い。動きが緩慢なのは壬生を焦らすためでもあり、また龍麻自身が気を遣らないようにするためでもある。
「そ…じゃ、そろそろ、ね」
ずるんと壬生から己を抜き出す。喪失感に壬生が息を漏らしながら、眉を顰めた。引き抜かれたそこもきゅうっと締まって、物足りなさを訴える。
素直すぎる反応に、龍麻はそれだけでイキそうになった。
「ったく…これだから紅葉は…」
苦笑しながら、龍麻は壬生の身体をベッドの中央にずらそうとする。龍麻の意図をすぐに飲み込んだ壬生は、自ら素直に身体を動かした。
「いいこ」
笑いを含んだ声で言うと、壬生の口元が一瞬嬉しそうに緩んだ。
「はやく……」
掠れた声で呟くと、壬生は自分から脚を開いた。真っ赤に充血しめくりあがったそこが露になる。
初めて目にする壬生の痴態に、ここまで焦らしまくった俺ナイスと、龍麻は見えないところでガッツポーズをした。壬生はもう、完全に飛んでしまっているようだ。
「大丈夫、すぐに、あげるから…」
耳元で囁けば、くすぐったそうに首をすくめながら、また少し、笑った。そのまま一気に貪って壊してしまいたいと思う。
猛る己を柔らかいそこに押しあて、壬生の呼吸に合わせて奥まで貫く。鳴きながら仰け反る壬生の身体を抱えて、龍麻は正面からゆっくりと腰をグラインドさせた。
「んっ、あ、ぁ、あ…ッ」
「…っく……き、…っ」
壬生は夢中で龍麻の背中に腕を回した。これ以上ないくらい熱をためた秘部は、壬生の意志と関係なくきつくきつく龍麻を締め上げた。
そのきつさに一瞬眉を寄せた龍麻を見て、涙目で「ごめん」と言うが、身体は言うことを聞いてくれない。それどころか龍麻の動きに合わせて締め付けはますます強くなってゆく。
「あっ!も…だ……っく、も…ッ!」
じゅぶじゅぶと音を立てるそこから、全身が熱に蕩けてしまいそうな感覚に、壬生は震えた。龍麻の先端が感じやすい一点を擦り上げた瞬間、張りつめた壬生自身が熱い液体を放った。
真っ赤になったそれは、ビクビクと震えながら白濁を吐き出し、壬生の腹と龍麻の腹とにかかった。
「あ、っつ…ん!」
龍麻はしかし動きを止めず、深く強く壬生を貫いた。
「やっ…んぁあ、め、あ…ッ!」
熱を放った壬生のペニスは、放った瞬間からまた勢いを取り戻し、あっという間にまた限界を迎えた。
「はッ、ん…ぁ、あ、あ…ッ!」
壬生の身体が激しく痙攣して、二度目を放つ。龍麻はようやく緊張を解き、壬生の中に自らもまた精液を放った。
瞬間、頭の中が完全に真っ白になる。
溜め込んでいた熱が一気に解放され、全身を痺れが走る。
内側に熱い本流が注ぎ込まれる感触を感じながら、壬生も意識を手放した。身体はまだ細かく痙攣し、龍麻を締める。
ガンガンと頭が鳴り響く音を龍麻は聞いた。しかしそれは不快な頭痛とは違い、むしろ酩酊感を龍麻に与える。世界がグニャグニャと歪んで曲がって混じり溶け合っているような感覚に、龍麻は呆然と飲み込まれていた。
かなり長い間ぐったりと身体を重ね合わせていた二人だが、しばらくしてようやく龍麻が起き上がった。のろのろと身体を動かして、龍麻はベッドの脇に放り投げられていた髪拭き用のタオルを掠めとった。結合部にタオルを敷き、そっと引き抜く。抜いたそこから、自らが放った精液がどろりと溢れ出た。
弛緩するそこに指を差し入れ、中身を掻き出す。壬生はぐったりとしていて、内部に異物がまた入れられた事にも気付かない。一通り掻き出し終わってから、龍麻はタオルをくるくると巻いて、綺麗な部分で今度は自分と壬生の腹部を綺麗にする。
そのタオルをシャワールームに放り投げてから、龍麻はようやくベッドに身を投げた。
壬生程ではないだろうが、かなりの疲労感が龍麻を包んだ。
眠りの淵に入り込んでしまった壬生を腕の中に抱え込む。壬生のぬくもりと呼吸を感じて、龍麻の身体は急激に脱力した。
明日きっと怒られるだろうな、と思う。壬生はきっと顔を真っ赤にさせて自分を睨み、馬鹿とか、もう知らないとか、そういう事を口走るんだろうな、と思う。
壬生が責めるのはたとえ半分本気でも、残り半分は本気ではない事を龍麻は知っている。けれど壬生が怒ったり悲しんだりする事は龍麻にとっては非常に嬉しくない、壬生にはいつも笑っていて欲しいと、そう思っている。にも関わらず、一方でもっと泣かせたい、怒らせたい、壬生がどこまで自分を許せるか試したいという思いが、いつも心のどこかで燻っている。
平素は笑顔の下に覆い隠せるその思いだが、異国と性交という二つの非日常のおかげで、たがが外れてしまったらしい。
今になって龍麻は、がっくりと肩を落とした。
壬生は傷ついただろうか。プライドを傷つけてしまっただろうか。そんなことをしたかったわけではない。
龍麻はもともと凶暴な人間である。破壊衝動はおそらく人並み以上にあるし、時々どうしようもないくらいに戦闘意欲がわき上がる事がある。だが紫郎や本人の努力結果、そういった側面は基本的には表には現れない。
だが龍麻は今「戦場」にいる。いつどこで龍麻の力を欲するモノから襲撃されるかわからない。だからあえて意識は解放していた。いつも心の奥深くに沈めていた衝動を、浅いところにまで引き上げている。
高校三年の一年間もそうだった。しかしあの時はその暗部が解消される機会がふんだんにあった。いらないくらい、あった。だから切り替えを素早く出来たのだが。
臨戦態勢にあるにもかかわらず、龍麻にとっては平和の象徴である壬生が近くにいる事で、心のどこかが苛立ったようだ。
そんな、自分一人の勝手な感情に、壬生を巻き込むつもりもなかったのだが。壬生を抱く腕に力を込める。
ごめんね、と呟きながら、目の前にある額に口づけを落とす。すると、壬生がうっすらと目を開けた。
てっきり眠っているものだとばかり思っていた龍麻は、少し驚いてその顔を見つめた。
「………ばか」
先ほどの予想通りの言葉に、苦笑する。
「でも」
消え入りそうな声で、壬生が続けた。
龍麻はおやと思って耳を澄ました。
「すき、だ…よ………」
それっきりまた眠りの淵へと落ちていった壬生を抱きしめて、龍麻は少しだけ、泣いた。