靴下の秘密 -中-
なんでこんな事になってんだろうなーと、葉佩は思いつつも、明確に考えをまとめる事は出来なかった。
「ん……こら、あぁ…ん」
取手に凭れ掛かりながら、葉佩は前と後ろを同時に弄られていた。
葉佩自身も、指を取手の勃ち上がったペニスに絡め愛撫している。
くちゅくちゅと響く音は明らかに自分の後ろから聞こえていて、やれやれ、俺は本当に女に成っちまったんじゃないかなどと思う。
「柔らかいよ……すごく」
タイミングよく発せられた言葉に、葉佩はひくりと肩を揺らした。同時に、取手の指を締め付けた事が分かる。
取手はわざとらしく、大きく指を回してぐちゅりと音を鳴らした。
「はっ……ふ、ぅ………」
漏れた息は甘く、葉佩は照れ隠しに取手の首筋に噛み付いた。
身体をずらし、取手に跨がる姿勢をとれば、ずるりと長い指がアナルから抜け落ちる。
取手は黙って葉佩の好きにさせた。
葉佩は取手の胸板に手を当てて身体を支えながら、固く勃ち上がっている肉棒をほぐされた後孔にあてがった。
目は潤んで、唇は唾液に濡れている。紅潮した頬も、ひどく扇情的だ。
躊躇いがちに先端を含むと葉佩は動きを止めて、安堵したかの様に息を吐いた。
いつもはここで腰を掴んで引き倒し、思うがままに貫いては揺さぶって、葉佩に悲鳴を上げさせるというのに、何故か取手は黙して葉佩を見つめるだけだ。
いつもと異なる反応に、葉佩は明らかに動揺していた。しかし走り出した快楽への欲求はそれくらいの動揺では収まらない。
葉佩は軽く唇を噛むと、少しずつ腰を落として固く熟れた取手を呑み込んでいった。
一気に抉られる事も相当きついが、実際、ゆっくりと引き裂かれる方が快楽は長く甘く途方も無い。常は一瞬の内に過ぎ去る嵐が、今日は緩慢で濃厚だ。
知らぬ内に葉佩の口元からは甘い声が漏れていた。
元々快楽に耐える事を躊躇わない葉佩である。抑える気は毛頭ないが、ここまで女々しいと流石に羞恥を感じる。
じっと見つめて来る取手の視線も妙に痛く感じられ、葉佩は額を取手の首筋に埋めた。
「んふ……あぁ、ん……」
ようやく収めきった葉佩は溜め息と共に声を上げた。
弛緩した身体は奥深く取手を呑み込み、抉られ押し広げられる感覚に、葉佩は未だ慣れない違和感を感じる。
しかしその違和感さえも、葉佩にとっては快楽の一要素だった。どうせなら、一生慣れなくてもいいと思う。
「鎌治……」
低い声で囁き唇を寄せれば、取手は素直に口付けを与えてくれた。
唾液と唾液がねっとりと絡まり、卑猥な音が響く。舌を踊らせて、互いの口内を隈無く愛撫する。
口付けが激しくなるに連れて、葉佩は軽く腰を前後させていった。
「ん……っく、ぅん…ふ………」
溢れた唾液が互いの顎を伝う。首筋を伝う粘液の生暖かさを感じながら、葉佩は円を描くように腰を回した。
押し付ければ、奥深くまで取手の先端が潜り込む。入り口近くの前立腺付近は無論の事、葉佩はこの奥まで取手のものでいっぱいになる感触も好きだった。
本当にまるっきり女だなと、頭のどこかで嘲笑が聞こえた。が、すぐさま隅に追いやられ消える。
描かれる円が徐々に大きくなり、抜き差しの動きに変わる頃には、唇と唇は互いに離れ、葉佩はあられもなく声を上げていた。
「あ、あ……や、ぁん…か、まち……い、あ……」
自ら脚を開き、結合部分を見せつけるように葉佩は腰を振った。
赤く染まった葉佩のアナルから音を立てて見え隠れする取手のものは、取手自らが漏らした透明な粘液のために卑猥にてかっている。
粘液は葉佩の中を湿らせ、先程擦り込まれた唾液と共に葉佩の内壁と擦れ合ってぐちゅぐちゅと音を立てた。
「ふ……んっ、んっ」
取手の細い指先が、同じく透明な液をしたたらせる葉佩のペニスをなぞると、葉佩は唇を噛んで仰け反った。
狭い孔が一層取手を締め付け、その感触に取手の自身が踊る。
びくびくとした振動が自分に更なる快感を与えてくれる事を知ってる葉佩は、取手の動きに合わせて腰を大きく上下させる。
抜けそうになる程まで持ち上げた後、躊躇いなく最奥まで落とす。
「は、あ…はぁ……や、ん…きもち、い……」
震える唇が素直に言葉を紡ぐ。
「ね、も……いき、そ……」
唇をぬらりと舐めながら葉佩が取手を見つめた。
「かま、ちも…ね、動いて……下から、もっと…」
取手以外は聞いた事もないだろう甘い声で、葉佩が取手にねだった。
その目の奥には、快楽に溶けた笑みが潜んでいる。僅かに上がった口角は、娼婦か売女のようだ。
取手は葉佩の蕩けた表情を、何故かひどく苦しそうな目で見つめると、睫毛を伏せた。
ふわりと取手の瞼が落ちた次の瞬間、大きな衝撃が葉佩を下から包み込んだ。
「んあ!あ、あ、あ……!」
激しい突き上げに、葉佩は身体を崩しそうになる。取手の肩を爪を立てて掴みなんとか持ちこたえる。
もはや自分の思う通りには動けない葉佩は、それでも取手のペニスが自分の最も感じる箇所に擦れるように腰をずらした。
前立腺をダイレクトに擦り上げられ、葉佩の眦には涙が堪った。
「んも…だ、めッ……っく、いく……ぅ!」
葉佩の内太腿が小刻みに痙攣した。それと同時にアナルが引き締まり、取手のくびれが葉佩の性感帯を抉った。
「んあッ!あぁあ!」
全身を震わせながら、葉佩は熱い白濁を放った。
そして取手もまた、締め付けられるままに葉佩の内側に精を放った。
葉佩は呆っとしながらベットにへたりこんでいた。
ぼやけた視界には黒髪の少年が映っている。取手はしばしの脱力の後、無言のまま手際よく後始末をした。
互いの腹に掛かった葉佩の精液を拭き取り、葉佩の中から取手の放ったものを掻き出した。
全てが終わった後、取手は葉佩を覗き込んだ。
「終わったよ」
「ん……あぁ……」
心ここにあらずといった様子で、葉佩が生返事を返した。
ぼんやりと取手を見つめている葉佩を、取手の灰色掛かった瞳が覗き込む。
「用事は済んだだろう?」
「ん……?」
相変わらずとろんとした目つきで、葉佩は取手を見返した。
「用事は、済んだんだろう?」
先程と同じ言葉を、取手はゆっくりと言い返した。
「ようじ?」
舌足らずな口調で葉佩は問い返すと、のろのろと起き上がった。
ぼんやりとベッドの皺を見つめた後、ふと顔を上げて取手を見つめた。
「済んだら、帰れと?」
「もう僕に…用は、無いだろう?」
取手はベッドから降りると、床に落ちていた葉佩の服をかき集めて葉佩に差し出した。
差し出された服を、葉佩はただ見つめるだけで、受け取ろうとはしない。取手はそれを見て、葉佩の目の前にそっと着替えを置いた。
葉佩は置かれた服を凝視した。
沈黙が二人を包んだ。
と、ごく僅かな音が取手の耳に触れた。
ぱた、と聞こえた方向を見れば、葉佩の目から透明な液体が落ちベッドのシーツに染みを作っていた。
…ぱた。
ぱ、た。
ぱた。
葉佩は瞬きもしないで、黙って涙を流していた。
取手の目の前で、シーツの染みだけが大きくなってゆく。
「?、あ」
葉佩が我に帰ってかのように声を上げて、ぱっと取手を見た。
「え?あ?」
びっくりした顔で葉佩は自分の顔をぺたぺたと触った。
「へ?うっそ。俺、泣いてる?」
きょとんとした顔で、葉佩は実に間抜けな質問を取手にした。
「……そうだね」
取手は落ち着き払った声で、そう返した。
「涙なら、流れているよ」
泣いているのか、それともただ涙が流れているだけかは知らないけれど。
葉佩はまた呆っと取手を見つめた。
「なんでだろ」
「さぁ…ね」
君が分からないのに、僕が分かる分けないじゃないかと口の中で呟きながら、取手がふいと目を反らした。
反らした瞬間に、葉佩の目からはまたぱたぱたと涙が零れた。
「あ、わ」
びくりと葉佩の肩が震えて、困惑したように眉を寄せた。
「どう、しよう」
葉佩の顔色が急速に曇り、涙が一気に溢れ出した。
「どう、しよう」
震える声で、葉佩が言った。
「かまち」
「かま…ち」
「……かまちぃ」
涙に濡れた声が、取手の耳を覆う。
鼻をすすって、軽くしゃくり上げる。
取手の目の前で、葉佩九龍は次から次へと涙を流した。
「どう、しよう」
子どもが母親にすがるような、そんな声色で葉佩が取手に言った。
「どう…しよう、かまち。俺、俺……」
ひどく戸惑った様子で、葉佩が目線を泳がせた。
「俺…悲しい、みたいだ………」