夢妖 -5-




「……覚悟は、決まったのか?」
近づいてきた三人に、振り返らないまま龍麻は問うた。
墨田区白髭公園、白髭団地のすぐ近くにある、細長い形をした公園だ。
防火目的に設置されたために、このような不思議な形状になったのだと言う。
平日の昼間という事もあってか、人影は少ない。そもそも防火公園のため、遊具もなければ、花壇すら満足にない。
か細い木々が寄り添うように生え、なんとも言えない侘しさが漂っている。
龍麻の言葉に、真神の三人は息を詰めた。
答えない三人に業を煮やしたのか、龍麻が顔を向ける。無言の重圧に、耐えきれなくなったのは小蒔だった。
「ボクは……そんな…殺すとかどうとか、よく、分かんないよ!」
吐き出すように言われた言葉に、龍麻はあからさまに眉をしかめた。
「ただ…葵は、葵はボクの親友だもの……!何かを、誰かを犠牲にしても…ボクが、苦しんでも…」
「死を背負う気もなく……助けたいと思う事は、無責任だな」
冷ややかに、龍麻が言い放った。
「命を計れもせず、ここに来るとはな…」
溜め息を吐く。高見沢はその隣で、少し困ったような表情で龍麻と三人の顔を見る。
が、論じ合っている時間はなくなったようだった。
五人に向かって、真っ直ぐに向かってくる人影があった。
妖艶な雰囲気を纏った女子高生が、五人の目の前で立ち止まる。
「……待ってたわよ」
「……こちらもだ」
絡み合う視線が息苦しい。
「ふん……アンタが緋勇龍麻ね」
品定めでもするかのような目で、少女は龍麻を見た。
「名は」
「フン…聞いところで何になるっていうんだい……。まぁいいさ。藤咲、亜里沙さ」
鼻を鳴らして、藤咲は龍麻を嘲るように笑った。
「着いて来な!」
踵を返す。龍麻は高見沢に目配せをして女を追った。
京一達には一瞥もくれない。その冷淡さに京一達は意を挫かれそうになるが、ここまできて負ける訳にはと、互いに顔を見合わせて頷き合った。
彼らには理解できない次元で龍麻が戦っている事は、分かっている。
そして自分たちがその次元に立っていない事も。それでも、そうだとしても、美里葵は間違いなく彼らの仲間なのだ。
立ち止まる訳には、いかない。
女は五人を狭い部屋に押し込んだ。
「………」
ガスだな、と龍麻は思った。ごく僅かに漂う香りに、敏感な龍麻の五感は反応していた。
あと数分で全員が深い眠りに陥るだろう。が、残念ながら龍麻にはこのテの薬物は効かない。
高見沢を見遣ると、意味ありげに頷いてきた。
おそらく、眠らせる事で敵方は自分の陣地、つまり意識階層の深部へと全員を導こうとしているのだろう。
「自意識界からダイブして行けると思うか?」
「龍麻ちゃんなら〜意識界の座標も〜バーッチリ覚えてるでしょぉ〜?」
だぁいじょうぶだよーと、のんびりした口調で高見沢が答えた。
無論、先程のダイビングで意識界座標も確認してある。問題は、先程のダイブから座標が移動してる可能性がある事だ。
「座標が移動してたら〜、舞子を探せばいいよー?」
「……そうさせてもらおう」
狼狽する真神の三人に構う事なく、龍麻は床に座り込んだ。落ち着ける姿勢を探し、目を閉じる。
「緋勇!」
醍醐の声に、龍麻は静かに答える。
「安心しろ。場所を、変えるだけだ」
それ、どういうことと小蒔が聞く前に、強烈な眠気が小蒔達を襲った。
やがて深い眠りが部屋を支配して、静寂が皆を包み込んだ。